年間読書テーマ谷崎潤一郎の主要作品を読む。あと残り僅か。
本日は大正時代の短編「人面疽(じんめんそ)」を読みました。初出は大正7年(1918年)3月発行の『新小説』(3月号)。中央公論新社の全集版で20ページほどの短編です。
ちょっと一風変わった作品で、メタフィクションの形態です。アメリカから帰朝したハリウッド女優(日本人)が自分が演じた覚えのない映像作品が東京市内で上映されているという噂を聞きます。映画の内容は日本内地の港町の遊郭の花魁と、それに恋したアメリカ人船員と、花魁に恋恋慕する身分の卑しい乞食の話。乞食の手引きで遊郭から逃げ出した花魁とアメリカ人船員はアメリカに密航することになりますが、手引きさせた乞食との約束を果たさなかったため、乞食は身投げしてしまいます。身投げした乞食が花魁の膝に瘤となって乗り移り、花魁はアメリカの社交界で成功しますが、妖婦となり、最後には発狂して死んでしまうという映画。
ハリウッド女優は日本国内の配給会社でのその問題の映像を確認する、というところで短編小説は終わっており、短編小説として破綻していますが、筋立てが時代を超えてモダンであり、アイデア一発勝負の作品として、代表入りしたものと思います。
谷崎は『痴人の愛』のモデルとなった葉山千代子の姉と婚姻関係にあり、同居もしていたことから映画の業界に精通していたと思われます。またこの時代にはアメリカの映画が日本でもさかんに上映されていたようで、十数年で太平洋戦争に突入する間の国とは想像できません。
とまあ小説とは関係のないところで嘆息しました。
