岩手日報他の地方紙に連載された後、2015年9月講談社から単行本化。団塊世代(1947年(昭和22年)~1949年(昭和24年)に生まれて、文化的な面や思想的な面で共通している戦後世代)を中心に読まれベストセラーになりました。作者はテレビの脚本家、元横綱審委員の内館牧子さん(1948年生まれ、秋田市出身)です。
2018年3月に講談社文庫化、館ひろし、黒木瞳の主演で映画化され、2018年6月9日(土)よりロードショー、という機会に手に取ってみました。
「定年って生前葬だな。」というキャッチーな文章で小説は始まります。東大法学部を出ながら大手都市銀行の出世コースははずれ子会社の専務取締役として63歳で定年を迎えた、田代壮介が主人公。
類書の定年男性を扱った小説と同じステレオタイプなエピソード満載で、日本経済新聞を家庭で定期購読している一部上場企業の役付きの男性が読むにはちょうど良い小説かもしれません。
救いは補助線に主人公の故郷として設定された岩手県盛岡市と、主人公が通うカルチャースクールの講座・石川啄木を引いたことだと思います。定年後の主人公の活動(再就職、社長就任、倒産、個人夫妻、不倫)を破滅型の石川啄木に託し、故郷へ戻っての活動を、盛岡の風土を盛り込んだ震災からの復興と二重写しにする手法で、さすが練磨のテレビ脚本家です。
主人公は妻名義とは言え、大田区北千足にヴィンテージ・マンションを所有し、再就職先のIT企業で、創業社長の急逝後、社長と同時に個人連帯負債も引き受け、倒産とともに1億近い個人資産を失ったとはいえ、なお企業年金も含め年間で500万円の年金を受け取る身分なので、一部上場企業およびその子会社で役員になれずに定年した人以外のその他大勢の人にとっては噴飯ものの筋書きですね。
過去に定年を扱った小説が結構あります。重松清『定年ゴジラ』、渡辺淳一『孤舟』、桐野夏生『猿の見た夢』などなど。いずれも大手企業を定年退職した男性の生きがい探しの筋立てです。定年といっても主たる収入元がなくなっただけの話であり、人生に死ぬまで定年はなく、団塊世代の方々も今少し外に向かったテーマ(あるいは内面を掘り下げる)での小説がほしいです。