原題は"Between You & Me: Confession s of a Comma Queen"(2016)。
著者はアメリカの雑誌"The New Yorker"のcopy editors(校正者)で、記事の言葉や文法の誤りを正したり表記を整えたりするお仕事です。タイトルのカンマ・クイーンとは、
ドラマクイーン(英語:drama queen)
英語のスラングの一種で、自分がドラマのヒロインであるかのように、大袈裟で同情を誘うような、感情的な振る舞いをする女性を指して、批判的に用いられる語。時に男性に対しても用いられると言う。
だそうで、たかだか英文のコンマに対して、大げさに騒ぎ立てる校正者を自虐的に表現したものと思われます。
校正者そのものが希少な職業であり、かつ著作となると例が少なく、また厳格な"The New Yorker"が出版をよく許可したなあという感じもあり、好奇心から読んでみました。
著者のMary Norrisさんは1952年オハイオ州生まれ。大学では英語学のマスターを取得しましたが職を転々。美術学校に通っていた弟の同じクラスに配偶者が"The New Yorker"幹部という女性だったという縁で面接にこぎつけ採用されたそうです。
"The New Yorker"には記事内容をチェックする部門がもう一つありfact checkers が働くthe fact-checking departmentで、日本語では「校閲」とされています。
内容は校正の周辺の話題。"The New Yorker"のWEBサイトの投稿動画が主体だそうです。いわば企業内YouTuberといったところでしょうか。
英文法上の間違い
英単語の歴史的な推移
句読記号(カンマ、ピリオドなど)の役割
英文学上のエピソード
重箱の隅をつつくような粘着質のオタク的な話題が多く、英文学・英文法・雑誌"The New Yorker"に興味がある人には魅力的な内容ですが、そうでない人にはちょっとつらいかも知れません。
本国では出版直後からかなり話題になったようですが、日本語訳が遅れたのは、英文に関する記述を、くどくならないように日本語に翻訳するのが難しかったせいだと思われますが、難物をうまく移された訳者の有好宏文さんの腕前はさすが。
著者にとっては天職のような校正者の仕事。彼女はこう語っています。「自分の仕事で好きなのは、人となりのすべてが求められるところである。文法、句読法、語法、外国語、文学の知識だけでなく、さまざまな経験、たとえば旅行、ガーデニング、船、歌、配管修理、カトリック信仰、中西部、モッツァレラ、電車のゲーム、ニュージャージーが生きてくる。」
同じ著者による二冊目の本の題名は"Greek to Me: Adventures of the Comma Queen"(2020)、本書のタイトル"Between You & Me: Confession s of a Comma Queen"が認知されたので不定冠詞から定冠詞に出世(?)されました。
<目次>
序章 カンマの女王の告白
〈足確認係からミルクウーマンへ/酪農人からニューヨーカーへ/すべての経験が生きる仕事〉
1章 スペリングは変人のもの
〈『WebⅡ』と『Web 3』の聖なる序列―辞書の話/どうしてゼッドがズィーなのか―綴りと発音/centreをcenterに―アメリカ式スペリング/変人の聖地へ―メリアム・ウェブスター社/初めて拾った日―ゲラ読み宙に舞う〉
2章 どっちが魔女(ウィッチ)なんだか
〈ゲラ上のプロポーズ―著者への指摘出し/制限なんか嫌いだ―関係代名詞のthatとwhich すべてがここに集う―集約部/たぐい稀なるジョン・マクフィー―出すぎた鉛筆/魔法使いジョージ・ソーンダーズ―ぶらさがり分詞〉
3章 彼と彼女のむずかしい問題
〈さようなら、スチュワーデス―女性形の職業名/ペニスはheで受けるのか―代名詞の性/数と性はどちらが大事?―単数のthey 弟が妹になるということ〉
4章 屈折してるね、あなたとわたし
〈車はどうして動くのか―言語の構造/あなたとわたしの過ち―between you and me Iはmeのフォーマル版?―屈折変化/誰がために mはある―whoとwhom〉
5章 カンマは気まぐれ
〈J・F・ケネディはストリッパー?―シリアル・カンマ/プレゼントにわたしを買った―ディケンズのカンマ/立ち上がるための時間―メルヴィルのカンマ/何度も死なないために―『ニューヨーカー』の細かなカンマ/形容詞にスピンをかける―ジェームズ・ソルターのカンマ/若気の至りは文末に―イアン・マキューアンのカンマ〉
6章 『Moby-Dick〈白鯨〉』にハイフンを入れたのは誰?
〈バンパーとレジ係には要警戒―分けるハイフン/辞書に振り回される―?ぐハイフン/カンマ・クイーンとミスター・ハイフン―芸術的ハイフン/『Moby-Dick〈白鯨〉』にハイフンを入れたのは誰?〉
7章 ダッシュ、セミコロン、コロンがバーに入ると
〈しかるべき長さ―エムダッシュ、エヌダッシュ/この曖昧なもの―ディキンソンのダッシュ/お高くとまったお方―ヘンリー・ジェイムズのセミコロン/折り目正しい執事―ケレファ・サナのコロン〉
8章 アポストロフィの浮き沈み
〈自然の浸食作用/アポストロフィ保護協会/八百屋は面白い〉
9章 使うなら * 正しく使おう * Fワード
〈押さえつけるとむしろ ******/ラッパーを校正すると******/遠回しに言うとかえって ******〉
10章 鉛筆狂のバラード
〈いちばんの鉛筆を求めて/すべての鉛筆はサンドウィッチである/区切りをつける/いざ鉛筆削り博物館へ〉
終章 百万ドルの校正者
〈百万ドルの校正者/図書館/カンマ、宙に舞う〉
<概要>
誤字・脱字や言葉の誤用を正す「校正」。ベテラン校正者の眼を通じて見るそれは、規則と心情とのあいだで揺れ動く、意外なほど人間らしい仕事だった!
アメリカの老舗雑誌『THE NEW YORKER』の校正担当者で、“Comma Queen“〈カンマの女王〉の異名をもつ著者が、その半生と、校正の現場で遭遇したミスや「揺れ」を振り返る──。“between You and I”のようなネイティブでも間違える文法や語法、ディケンズ、メルヴィル、ディキンソンら著名作家たちが操る記号──カンマやダッシュ、コロン──の独特な使い方、クセが強い校正者たちのエピソード、トランスジェンダーのきょうだいを呼ぶときの代名詞etc…。「正しい英文法」だけでは白黒つけられない、迷いと葛藤の日々を描く唯一無二の校正エッセイ!
出版社のサイトより


