『松本清張集』に続いて『阿川弘之集』を読んでます。今日ではタレント・阿川佐和子の父親と言った方が通りがよいのでしょうか。
内容は長編の伝記『山本五十六』と『雲の墓標』『年年歳歳』から成ってます。今回は『山本五十六』まで読了したので一区切り。確か高校時代に新潮文庫版で読んで以来の再読になります。
オリジナルは昭和39年から40年にかけて雑誌『文芸朝日』に連載され同年単行本化。44年に300枚を追加して新版が刊行されました。
昭和20年の敗戦から20年程度経過したところでの伝記で、今日刊行後半世紀をすでに経てますので、20代で終戦を迎えた人たちが壮年の頃、この伝記が刊行された時代背景はまず基礎知識として必要かと思われます。
また村松剛の解説にありますが阿川弘之の海軍体験も考慮に入れる必要があります。「同じように戦争に動員されても、安岡章太郎のように陸軍の一兵卒として、満州でつらい内務班生活を送らなければならなかった場合や、
海軍でも海兵団の水兵だったら、印象はまったく違ったはずである。阿川は海軍士官として、しかも知的雰囲気の比較的―比較の問題にすぎないとしても―濃い、暗号解読班で働いていた。この条件は、無視できないだろう。どちらかといえば老成した型が多いその同世代の作家たちのなかで、阿川は青春のすがすがしいにおいをもちつづけている数少ない例に属する」としています。至言ですね。
伝記として読めば第一級の作品であり今日でも価値は高いと思います。山本五十六自体の人物も相当魅力的であり、当時の日本海軍の置かれた状況が、大艦巨砲主義から航空機主体の戦争へ、対米戦争に反対しながらも、開戦となればその主作戦を立案せざるを得ない立場にある、歴史に翻弄された人物であります。このような人物をもってしても開戦は回避できませんでしたし、緒戦の博打的な作戦で勝利を収めた後、総力戦に持ち込まれ停戦の機会を失って国土と多くの人命を失いました。
阿川弘之の諸作は、戦争体験を文学までは昇華できなかったのでしょうが、本作は、太平洋戦争の背景の良質な歴史書としても読めます。
<著者紹介(新潮文庫のHPより)>
阿川弘之(アガワ・ヒロユキ)
1920(大正9)年広島県生まれ。東大国文科を繰上げ卒業、海軍に入り、中国で終戦。戦後、志賀直哉に師事し、『春の城』、『雲の墓標』、『山本五十六』『米内光政』『井上成美』の海軍提督三部作などがある。『食味風々録』は読売文学賞受賞作品。1999年に文化勲章を受章。
<新潮文庫版『山本五十六(上)』内容紹介>
対米戦争に、日独伊三国同盟に反対した軍人。聯合艦隊司令長官の若き日の活躍を描いた傑作伝記。
戦争に反対しながら、自ら対米戦争の火蓋を切らねばならなかった聯合艦隊司令官山本五十六。今日なお人々の胸中に鮮烈な印象をとどめる、日本海軍史上最大の提督の赤裸々な人間像を余すところなく描いた著者畢生の力作。本書は、初版刊行後、更に調査し、発見した未公開資料に基づき加筆された新版である。上巻では、ロンドン軍縮会議での活躍を中心に、若き日の山本像が描かれる。
<新潮文庫版『山本五十六(下)』内容紹介>
かつて戦争に反対した男は、戦争を始めた。詳細な資料から浮び上がる軍神と呼ばれた男の壮絶な人生。
下巻では、聯合艦隊司令長官に任命された山本五十六が、いよいよ真珠湾強襲の構想を固めるところから、昭和18年4月18日、ブーゲンビル島上空において敵機の襲撃を受け壮絶な最期を遂げるまでを克明に綴る。世界を震撼させた天才提督の栄光と悲劇を、膨大な資料と存命者の口述を基に、生き生きと甦らせ、激動の昭和史を浮彫りにした、必読の記録文学である。
山本五十六 1884‐1943(明治17‐昭和18)
やまもといそろく
明治・大正・昭和期の軍人。新潟県出身。1904年海軍兵学校(32期)卒業,05年日本海海戦で重傷,16年海軍大学校(14期)卒業後,海軍大学校教官,駐米武官,空母〈赤城〉艦長などを経て30年ロンドン軍縮会議随員を務めた。34年軍備制限予備会議全権委員,35年海軍航空本部長,36年海軍次官などを歴任し,米内光政海相を補佐して日独伊三国同盟の締結に反対した。39年平沼騏一郎内閣の総辞職に伴って中央を離れ,連合艦隊司令長官兼第1艦隊司令長官となった。40年大将昇進,41年連合艦隊司令長官専任となり,太平洋戦争の指揮をとり,初戦に大勝利を博したが,43年4月18日ソロモン諸島ブーゲンビル島上空で搭乗機を撃墜されて戦死,元帥を贈られ,6月5日国葬が行われた。 木坂 順一郎
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ロンドン軍縮会議
ロンドンぐんしゅくかいぎ
ワシントン海軍軍備制限条約(1922)の有効期間満了が近づいたため,マクドナルド・イギリス首相の提唱で,イギリス,アメリカ,日本,フランス,イタリアの五大海軍国がロンドンで開催した会議(1930年1月21日~4月22日)。
1927年6~8月に開かれた5ヵ国によるジュネーブ軍縮会議は,長い海岸線防衛用に主力艦を重視するアメリカと,世界にまたがる帝国防衛のために小型巡洋艦に制限を加えまいとするイギリスの対立が鋭く,暗礁にのりあげていた。これを受けたロンドンの会議ではイギリス,アメリカがともにその要求を取り下げた。日本は対米70%の大型巡洋艦を要求したがいれられず,結局小型巡洋艦と駆逐艦についてイギリス,アメリカの70%,潜水艦は均等という条件で,大型巡洋艦に対するワシントン条約の比率(60%)適用を受諾した。この結果4月22日にイギリス,アメリカ,日本の間で,ロンドン海軍軍備制限条約が締結された(有効期間6年)。地中海の制海権を争うフランス,イタリアは話合いがつかず,参加しなかった。同条約の協定保有量は表のとおりである。この会議では,ワシントン条約による1931年からの代替建造が36年まで延期され,イギリス,アメリカ,日本が主力艦を1年半以内にそれぞれ5,3,1隻廃棄して,保有量をイギリス,アメリカ各15隻,日本9隻にすることも取り決められた。
この条約は現有量と協定保有量の差が小さく,そのうえイギリスの主張で〈エスカレーター条項〉(第21条,非締約国の新艦建造で安全を脅かされた締約国は,他の締約国に通告のうえ必要な艦艇を増加でき,他の締約国もそれに比例して増加できる)が設けられたため,軍縮の効果はあまり大きくなかった。同条約の期間満了を控えて,1935年末から再びロンドンで会議が開催されたが,すでに日本は1934年に,36年末をもってワシントン,ロンドン両条約による制限が終結することを通告しており,またベルサイユ条約に違反してドイツは有力な海軍国になっていたため,意味のある合意の基盤は失われていた。36年末ワシントン,ロンドン両条約の失効とともに,各国は激しい建艦競争をくりひろげた。⇒統帥権干犯問題
納家 政嗣
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日独伊三国同盟
にちどくいさんごくどうめい
1940年,第2次近衛文麿内閣がドイツ,イタリアと結んだ軍事同盟。ベルサイユ体制に対して最大の不満を抱いたのは第1次世界大戦の戦敗国ドイツであったが,戦勝国であるイタリアもかなりの不満をもっていた。同じく戦勝国側にあった日本も,ベルサイユ体制の太平洋版であるワシントン体制への不満から,ベルサイユ体制の柱となっていた国際連盟に挑戦するにいたった。日本,ドイツ,イタリアが相ついで国際連盟を脱退する前後から,これら3国の接近が予想されていたが,軍事同盟への歩みは錯綜(さくそう)したものであった。日独防共協定(1936年11月25日)につづいて日独伊防共協定(1937年11月6日)が成立した後,ベルリン駐在武官大島浩と,1938年2月に外相に就任するリッベントロップとのあいだで,防共協定を軍事同盟に発展させるための交渉がつづけられた。日本海軍首脳部を中心に,日本国内にはドイツ,イタリアとの結合の強化への抵抗が強く,日本政府の態度はあいまいであった。リッベントロップは,さしあたり日本をぬきにしてイタリアとの〈鋼鉄の同盟〉と呼ばれた独伊軍事同盟(1939年5月22日)を成立させると同時に,3国の仮想敵であるはずのソ連に接近して,独ソ不可侵条約(同年8月23日)を結んだ。ここに,当時日本で〈防共協定強化問題〉と呼ばれていた,同盟への道程の第1段階は挫折をもっていったん終りを告げた。
同盟への道程の第2段階が本格化したのは,第2次世界大戦が〈奇妙な戦争 phony war〉の様相を脱して,ドイツの電撃戦によるヨーロッパ制覇に終わるようにみえた1940年初夏以後のことである。40年9月にリッベントロップ外相の特使シュターマー Heinrich Stahmer が来日して,9月27日に日独伊三国同盟が成立する。この第2段階での交渉は,三国同盟にソ連を加えた〈大陸ブロックcontinental block〉によりアメリカを牽制してその参戦をくいとめようという,リッベントロップの日独伊ソ四国協定構想にもとづいて進められる。外相松岡洋右を中心とする日本側がこの構想に全面的に賛成し,日本海軍も反対をやめたために急速にまとまった。しかし,ヒトラー独裁下のドイツでは,独ソ戦に執着するヒトラーが,リッベントロップの路線とは逆に,独ソ開戦(1941年6月22日)に踏み切ったため,四国協定構想は幻想に終わり,三国同盟はいたずらに日米関係を悪化させる結果をもたらした。 三宅 正樹
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