ブロガー、ちきりんさん大推薦の本。抜き書きして読みましたがすべての章が示唆に富み、ここ数年の日本の経済・政治問題を俯瞰する上での良書と思いました。
というわけで抜き書きしたら大変な量になりましたが。。。
『フェルドマン博士の日本経済最新講義』(文藝春秋、2015年)
<全体の章立て>
第1章 世界経済と日本
第2章 アベノミクスの評価と今後
第3章 エネルギー政策を考える
第4章 働きやすい労働市場にするために
第五章 少子高齢化の煉獄
第6章 地方再生と教育改革の進め方
<著者紹介>(文藝春秋による)
フェルドマン,ロバート・アラン
1953年、アメリカ・テネシー州生まれ。70年、AFS交換留学生として初来日。76年、イエール大学で経済学、日本研究の学士号を取得。84年、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。国際通貨基金(IMF)、ソロモンブラザーズを経て、98年モルガン・スタンレー入社(現・モルガン・スタンレーMUFG証券)。現在、同社の日本チーフエコノミスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
●まえがき
P2
経済学は何かと訊ねれれれば、「希少資源の最適な利用の学問」と答えます。さらに、その目的は、
「希少性からくる争いを減らし、世界を平和にすること」と言えるでしょう。
●第1章 世界経済と日本
P16
グローバル化には、いったん競争力を失った国からは、貴重な資源や人材がたちまち他国へ流れてしまうという特徴があるからです。
希少資源を最適に投入することが、産業に高い生産性をもたらし、経済を好循環させるのです。
P18
世界経済から見たとき、日本経済の強みと弱みは何か
(1)強みは、豊かな水と農地(効率が悪いので成長の余地が大きい)
日本の農業は、作付面積1平方キロ当たりの輸出額は千百万円ぐらいです。ところがオランダは、同じ面積でおよそ十億円の輸出額を誇っているのです。
都市部の土地の使い方、インフラ整備、よくない←規制・法律が問題
(2)オタク的な技術力の高さ
弱みは人材育成
国家予算における社会保障費の中身が高齢者に偏り、児童・教育への予算が少ない
今後もこの比重が減らなければ、世界に通用する人材を育てることはできません。
P24
義務教育のうちからグローバル化を意識して、人を育てていく必要があります。
また、日本には労働市場に柔軟性がないという特徴もあります。
<アメリカ>
P25
米国経済薄曇りの原因は?
アメリカの経済が元気よく上向かないのは、一言で言えばアベノミクスがないからです。
米国には成長戦略がありません。なぜないのかというと、民主党にしても共和党にしても「成長とは下から自然に上がってくるものであって、政府が決めるものではない。
市場経済なのだから、市場に任せる」という考え方だからです。市場原理主義から言えばその通りですが、理想と現実は違います。
(インフラ整備が)なぜ改善できないかというと、医療保険や公的年金といった義務支出にばかりお金を使っているからです。
アメリカの潜在成長力が薄曇りになっている一つの理由は、インフラを整備しない点にあります。
もう一つの問題は、教育です。義務歳出にお金が流れていて、教育に回す分が足りません。だから学校の教育水準が、非常に悪くなっています。
こうした矛盾が生まれる背景には、選挙制度が大きく影響しています。
下院の場合もっとも問題なのは、選挙区の線引きです。(いわゆるゲリマンダー)。
P30
アメリカの優れている点
(1)自己責任で企業を起こして儲けようという精神(パイオニアスピリット)。
(2)移民文化。
根性のある人たちが、きちんと教育を受けられるようにサポートする社会システムができていること。これは、アメリカの大きな長所です。
<中国>
・エネルギー問題が壁にぶつかっていること
・環境汚染問題も壁にぶつかっていること
・人口がそろそろ減少し始まること
・政治の問題も複雑
資本の使い方がよくない
石炭依存になっているエネルギーと環境の問題を解決できるかどうか
世界の決済通貨になる条件
(1)自由度が高い金融市場が整っていること(そのお金を使って短期・長期の投資ができること)
(2)他の国がその国にたくさん商品を売っていること
『ハーバード流交渉術』
「合意を引き出すフレームワーク」
1.人と問題を切り離して考える
2.条件ではなく利害に焦点を合わせる
3.両者に有益な選択肢を発想する
4.客観的基準を用いる
P44
TPPの日本にとってのメリットとデメリットとは?
デメリット
農林水産物の生産の減少、約3兆円(政府試算)
メリット
1.農業分野における輸出ビジネス・チャンス
2.国内農協改革(外圧利用)
3.商品検査の国際基準(コスト削減)
4.アジアの貿易環境の整備(中国が国内整備を行い遅れて参加か?)
5.日米関係強化
P49
欧州経済の問題点は何か
アメリカと同じく、アベノミクスがない
欧州中央銀行(FCB)の量的緩和はある
財政再建、成長戦略、がない
実際に移民を規制することになれば、「域内の移動の自由」というEU結成の基本理念に反しますし、欧州を成長させた「適材適所」の労働市場が危なくなります。
欧州は、経済的合理性と政治的合理性がかみ合っていません。
難民問題は受け入れ国のチャンス
難民の子どもたちはわずか20年先の貴重な人材です。
●第2章 アベノミクスの評価と今後
3つの目標
デフレ脱却、財政再建、成長加速
3つの政策道具
金融政策、財政政策(税・歳出)、構造政策
過去の経済政策では、明確に3つの政策をかみあわせることをしなかった
効果を上げた理由、アベノミクスのネーミングとセールス
「三本の矢」
1.大胆な金融政策
2.機動的な財政政策
3.民間投資を喚起する成長戦略
P58
1.大胆な金融政策
日銀がお金を大量に刷って広く撒く。お金が増えればいくつかの経路で、景気が良くなって、給料も物価も上がる、という非常に単純なマネタリスト理論です。
私は、非常にうまくいっていると評価しています。
P60
2.機動的な財政政策
短期的な政策:デフレが続いている間は有効的に十分にお金を使うこと
歳出構成が問題、社会保障費が上昇、教育・エネエルギーなどの成長率を高めるための予算が減っている
中長期的な政策:歳出削減が必須
安倍政権は2020年のプライマリーバランス(基礎的財政支出)をゼロを目標にしている(数兆円の歳出削減が必要と言われている)
第二の矢を成功させるなら、プライマリーバランスをゼロにするという現在の目標ではなく、負債比率を安定化する。そういった高い目標が必要です。
第3の矢
3.民間投資を喚起する成長戦略
P65、著者による進捗度合を測るレーダーチャート
農業=4 ◎
私は、第三の矢による農業改革を高く評価しています。日本の農業技術は、いろいろな部分で非常に優れています。ですが、それを活かして換金する仕組み作りが進んでいません。
農産物の輸出が現在のように少ないのは、国を貧乏にしているという罪です。これまでの農協の組織がそうした非効率の原因だとすれば、農業に担い手に対して迷惑ですし、消費者、納税者にも迷惑をかけていることになります。
農協の改革が必要なのはそういう理由で、改革が進めば地方再生にもつながります。
企業統治=4 ◎
2014年から始まった「JPX日経インデックス400」(株価指数)等で、企業を見る評価基準が厳しくなった。非常によくなってきた。
教育=3.3 ○
大学と民間との協業による産業化・商品化が規制緩和によって加速している
行政=3 ○
2014年、内閣人事局が官庁管理職の幅広い任免権を握ったことにより改革が進んでいる
税制=3 ○
税制改革が中小企業や個人の納税意識を高めるまでになっていない
医療=2.2 〇
日本の社会保障費は、年間およそ130兆円、約40兆円が医療費
後期高齢者の医療費が、本人負担3割、あるいは100%の想定をしてみれば、終末期医療はいまより道徳的になるでしょう。
ドイツは「臓器提供」に印、オーストリアは「提供しない」に印、ドイツでは提供者が少ない、オーストリアは100%近い
雇用=2 △
改革が進んでいない分野の代表、雇用ルール・労働市場
いま必要なのは大企業と中堅企業、男女間の格差をもたらしているルールを外すこと
日本の長期雇用には、運の良い人の雇用を保護するプラス面もありますが、30代半ばを過ぎたら転職できないというエントラップメント(知らずに罠に落ちる)にもなっています。
ルールを変えれば簡単なのですが、変えたくない人たちもいます。誰かといえば、700万以上貰っている人たちです。そして彼らが労働政策を牛耳っている現実があります。
エネルギー=1.3 ×
日本のエネルギー価格は、アメリカに比べて断然高い(産業用天然ガス7倍、電気代2.7倍)
移民=1 ×
有期外国人労働者の制度より移民がよい(スイスは滞在ビザ5年期限、期間中に法令違反がなければ更新)
選挙制度改革=0.5 ×
政治の問題を、なぜ経済のテーマとして取り上げるか。実は選挙制度にこそ、経済成長を左右する原因が潜んでいるからです。
とくにいまの選挙制度では、高齢者が多い地方の票が重いということが、基本的な問題です。つまりいまの選挙制度がこのままでは、国の財政において合理的なお金の使い方はできないのです。
P78
改革と景気の逆関係
政策と景気の絡み合いは常に循環
その様子をわかりやすく図に表したのが1990年代末から著者の考案したCRICサイクルの法則
経済になんらかの「危機」が起こると、政策が「反応」
すると経済は「改善」される
ひとたび「危機」が去ると政治も人々も安心し、「怠慢」になる
・危機(crisis)
・反応(response)
・改善(improvement)
・怠慢(complacency)
P82
日本の金融改革は成功例です。
かつて日本経済は、バブルで痛い思いをし、立ち直るのに「失われた十年」と呼ばれる長い年月を必要としました。しかしいくつかのCRICサイクル局面を経て、10年ほど前に問題をうまく処理できました。
経済成長戦略、セーフティ・ネット、資本注入、国民の支持、厳格な資産査定という5つの政策反応を実行して、ようやくうまくいったのです。
P83
景気をどう読むか。どの指標を採用してどう解釈するかによって、景気の読み取り方は大きく変わります。なるべくフォワードルッキングな、つまり予測力のある指標を用いることがポイントです。
P90
なぜ財政改革ができないのか?
この疑問に対する答えは、米国でも欧州でも、他の国もまったく同じです。「政治は既得権益に弱いから」、そして「有権者は甘いから」です。
P93
財政再建のために、選挙制度をどう変えればいいのか
著者の改革案、国会を株主総会のようにする(各選挙区の代表者に議決権を、その選挙区の人口比例で与える)
投票は権利でなく義務だという考え方を採用する(オーストラリアなど(投票率90%以上))
P96
●第3章 エネルギー政策を考える
経済について考えるとき、エネルギー問題は突出して重要
日本で暮らすことや事業を行うことは、多額のエネルギー代を負担することを意味します。家庭の光熱費は高いし、産業の競争力にはあらかじめ大きなハンデがついているのです。
エネルギーの価格は、地球全体の使用量によって変わる
3つの要因:人口、生活水準、使用効率…この3つの動向によって使う総量が決まる
エネルギー使用量=エネルギー使用効率×生活水準×人口
エネルギー使用量はquad(クワド)という単位で表すことがある
P99
地球温暖化は日本経済にどう影響する?(日本への影響)
食料品の価格が上がる
カリフォルニア州の水不足(農産物の輸入元)
P101
日本のエネルギーの使い方は、何が問題か
資源エネルギー庁がよく使う単位:エクサジュール
日本は他国に比べ、全体としてエネルギー効率が非常に優れている
技術を広げようとするペースが遅い
日本のエネエルギー政策は、原発再稼働に重点を置いてきたため
原油価格は安ければ安いほどいい?
資源が高くて手に入りにくくなった国は資源戦争に走ってしまう、または資源を持つ国が悪用する、という過去の歴史もあります。
地政学的な観点からそう考えれば、原油価格は安いほうが国際的な安定に貢献するのではないかと思います。この観点からも、設問への答えは「安い方がいい」です。
未来学的、高い方がいい、石油依存の現状からの脱出
P110
「石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない」と。(サウジアラビア、ヤマニ石油大臣)
すなわたい、技術進歩で時代が変わるということです。その通りだと思います。技術を所有する国は勝ちです。
P114
エネルギーはサプライチェーンも大事です。どこか一か所がよくなると、全体の仕組みが変わります。
P118
省エネはまだ可能性が高い
(日本は)家庭と商業施設でのエネルギーの使い方、中でも住宅は問題です。(効率が悪い)。
P121
日本のエネルギー予算の総額、年間1.2兆円
社会保障費は127兆円
エネルギー分野の研究開発費が少なすぎる
P122
日本のエネルギー政策を強くする方策
(1)効果的な金額と配分
(2)世界的な協力
(3)社会保障費と縦割り行政を減らすこと
残念ながら現状は、原発をどうするかという議論ばかりです。それも大事ですが、部分ではなくエネルギーのサプライチェーン全体像を見て、どこがボトルネックになっていてどんな技術を開発してそれを解消していくかを考えることがベストミックスへの道です。
エネルギー問題は各国共通です。世界の生活水準は上がっていきますから、エネルギーの需要はぐんぐん上がります。日本人はいま、一人平均で年間7752kWhぐらい電力を使っています。アメリカはそのほぼ2倍です。
P128
雇用と労働を考えるときの大原則
雇用と労働について考えるとき、大事な原則が2つあります。
ひとつは「同一労働同一賃金」。もうひとつは「適材適所」です。この2つの原則から外れた現実や矛盾があると、経済効率が損なわれます。
同一動労同一賃金を実現するために大事な前提条件は、労働移動の自由です。
動労市場が公平公正であり、効率的であることも大切です。よく言われるのは、公平公正と効率は代替関係にあるということ。公正であるほど効率は下がるといわれるのですが、これは大きな間違いです。
労働市場や労働ルールについて考えるときは、fair=efficient、すなわち公平公正=効率ということを忘れてはいけません。
日本の労働市場は、流動性に欠けています。
「移動が多いほどいい」のではありません。「移動する自由があること」が必要です。移動できるルールがあれば、労働者自身と勤め先によって仕事を決め、需給が労働条件や待遇を適正水準にする効果をもたらします。
日本の企業は(安定成長とグローバリゼーションによって、公平なルールに基づく競争の時代に移ったにもかかわず)、年功序列と終身雇用を改めませんでした。その結果、何が進んだかというと、格差の拡大です。すなわち、年功序列、終身雇用の企業に入る社員は、高い給料をもらえるが、同じ仕事をしてもそうではない企業に入る社員は低い給料のままということです。流動性を阻む日本式雇用は、結果として産業全体の労働生産性を下げています。
格差が非効率を広げます。
P153
年功序列の賃金制度をやめれば、会社にとって定年はあってもなくてもいいはずです。
現在の雇用と給与のシステムは、労働者の生産性やスキルをベースにしておらず、生産性、スキルの改善を損なっています。
「高齢者の健康寿命を伸ばそう」とよく言われますが、「労働寿命ももっと伸ばそう」ということも必要です。いわゆる「終身現役社会」は正しい概念です。
できるだけ長く働くために、年金の支給開始年齢を遅らせる。予防医療の充実を維持し、シックケアではなくヘスルケアを徹底して、スキルアップを組み合わせることです。
アベノミクスの成長戦略の中でも、高齢者の労働を増やしましょうという合言葉は出ていますが、具体策、予算(他の歳出を削減という前提)は少ない。もっと働きたいという高齢者自身の意欲を汲み、喫緊の課題として考えるべきです。
P159
●第5章 少子高齢化社会の煉獄
P165
この結果からわかることは、家庭における男性の役割です。つまり少子化問題は、家族の中の男性の役割、女性の役割をどうやってシェアするのかという家族のあり方の問題です。
高齢者のために使っている医療費や年金を減らし、現在の若者の教育と、子どもを生み育てやすくするための政策に回すべきです。
いまの医療制度は基本的にヘルスケアではなくシックケアです。病気になってから医者にかかって、治療をします。それでは遅いのです。お金もかかるし、元の健康を取り戻すのも難しい。シックケアからヘルスケアへ、つまり健康管理、予防医療へと大きくシフトする以外に財政再建は無理です。その意味で、健康管理と予防医療に重点を置くことは、10年先や20年先に払わなければならない医療費を削減することになります。鍵となるのはインセンティブです。
「保健医療2035提言書」(厚生省の懇談会)
1.公平・公正:将来世代も安心・納得ができ、医療サービスに応じた評価が行われる
2.自律に基づく連帯:一人ひとりが保健医療における役割を主体的に果たす
3.日本と世界の繁栄と共生:日本が持っている医療技術を世界で使えるようにする
P178
「共同責任」は共倒れの連鎖反応になり、「自己責任」は連帯を強化できる社会の実現をもたらします。
結局は国民が増税と歳出削減の組み合わせを選択せざるを得ないのです。
P182
●第6章 地方再生と教育改革の進め方
地方経済が行き詰った理由は?
政界・役所にとっては都合がいいが必ずしも市民のプラスにならない、という制度になっているのです。こうなってしまった原点はどこにあるかというと、昭和20年代にマッカーサー元帥が行った農地改革までさかのぼります。
農地改革は、経済効率を向上させることが目的ではなかった。むしろ、左派勢力が広がらないように、地方を民主化することが目的でした。
都道府県の合併も行うべきです。全国に9ぐらいでいいと思います。(デンマークの例)
憲法を改正せずに参議院の定数を2人にすることです。
地方経済の生産性を高めるためには?
選挙制度改革を進めると同時に、稼ぐ力をどう増やすのかが問題になります。ごく普通の経済常識で考えれば、答えは「生産要素」と「生産性」です。付加価値を上げる生産要素は
、資本、労働、土地(地方ではとくに農地)です。
地方で有望な産業は、農業、エネルギー産業
地方再生プランを長期的なトレンドで考えると、エネルギー、インフラ、高齢化を考え合わせる必要があります。
教育再生に欠かせない条件
教育の経済効果を考える際に難しいのは、即効性がないこと、生産関数や費用対効果がよくわからないことです。
遅くとも12歳ぐらいまでに一度、2週間でも3週間でもいいから海外へ行って過ごすことが非常に効果的だと思います。
留学は収益率の高い投資です。
労働改革と教育改革がかみ合うように政策と労働習慣を再構築する必要があるのです。


















