高校時代の音楽をアナログ・レコードで聴きなおすという無謀な企画。今回はモコ・ビーバー・オリーブのオリーブ嬢ことシリア・ポール『夢で逢えたら』(1977年)です。
本作のプロデューサーである故・大瀧詠一さんは雑誌『レコード・コレクターズ』(2007年増刊)のアンケート「無人島に一枚だけレコードを持っていってよいと言われたら何を選ぶか」に対し、レコードそのものではなく、1962年から1966年までのヒットチャートを掲載した『レコード・リサーチ』というカタログを選ばれました。理由はその4年間のヒットチャートの曲なら「(頭の中で)いくらでも再生できるから」というものでした。(内田樹先生のブログよりエピソート紹介)。
60年代のアメリカは日本から見ればまだまだ仰ぎ見る大国で、人々が「夢」を語れる時代でした。夢のあるアメリカのポピュラー・ミュージックを消化し、換骨奪胎し、日本語の曲に違和感なく乗せる、というのが私の理解する大瀧詠一さんの音楽です。
『夢で逢えたら』はオールド・ファンにはなつかしい深夜放送のモコ・ビーバー・オリーブ(1967年~)こと、オリーブのシリア・ポールをボーカルに迎え、大瀧詠一さんのレーベル、ナイアガラ・レーベルから1977年に発売されたものです。2018年に発売40周年を記念して、多数のミックスを含むビニール版、CD版のボックス・セットが発売されたので購入してみました。
はっぴいえんど解散後の70年代の大瀧さんは際物的な扱いで一部の熱心な共鳴者しかおらず、正統な評価は『A LONG VACATION』(1981年)、松田聖子さんの『風立ちぬ』(1981年)(A面のサウンド構成者)まで待つことになります。アルバム『夢で逢えたら』もセールスは1万枚程度だったそうで、
「幻の名盤」として埋もれてしまっていました。
本作はシリア・ポールさんの作品というよりは、大瀧詠一さんの渋い選曲と、凝りに凝ったアレンジが眼目で、81年の『A LONG VACATION』の修作と言えるかもしれません。
ボーカルがバックのアレンジに力負けする曲も散見されアルバムとしてのまとまりには欠けるところがあります。とはいえ、ツボにはまった曲はアルバムタイトルの『夢で逢えたら』を始めとして永遠のスタンダードナンバーたりえる佳品だと思います。
蛇足ですがシリア・ポール版とは別に『夢で逢えたら』のオリジナル・カバー曲全86曲を収めたCD4枚組の『EIICHI OHTAKI Song Book Ⅲ 大瀧詠一作品集Vol.3 「夢で逢えたら」(1976~2018)』も発売されています。日本ではめずらしい歌い手を超えたスタンダード・ナンバーですね。
シリア・ポールさんのアルバム『夢で逢えたら』収録曲を簡単に紹介します。ライナーノーツに大瀧さん自身が「フィル・スペクターのサウンドに捧げたい」とあるようにアレンジはフィル・スペクターのサウンドに影響を受けています。楽曲のアレンジはすべて大瀧詠一さんですが、ストリングのアレンジは山下達郎さんです。
ボックス版のライナーノーツによると、ナイアガラ・レーベルでのシリア・ポールさんへのアプローチは下記の3点。単にレーベルに女性歌手がいなかったことと、大瀧さん自身のガール・ポップへの挑戦という思いが基本にあるようです。
理由(1)モコ・ビーバー・オリーブのプロデューサー朝妻一郎氏がナイアガラのアドヴァイザーだった。
理由(2)モコ・ビーバー・オリーブのラジオ番組「ザ・パンチ・パンチ・パンチ」のディレクターが親交のあった亀淵昭信氏だった。
理由(3)デビュー作『わすれたいのに』(1969年)がフィル・スペクター・プロデュース作品のカバーだった。(シングル盤解説は亀淵昭信氏)。
Side-1
1.夢で逢えたら(大瀧詠一)
アン・ルイスさんへの提供曲でしたがレコーディングには至らず、オリジナルは吉田美奈子『FLAPPER』(1976年)収録。子役出身、ラジオ・パーソナリティでもあるアン・ルイスさんへの敬意と、一種の照れからの洒落でしょうかちょっと臭い「セリフ」入りがミソです。女性歌手によるカヴァーが多数生まれましたがチャートでの100位入りはなく、男性歌手「ラッツ&スター」のカヴァーがトップ10入り、1996年の紅白出場というのは面白いエピソードです。
2.恋はメレンゲ(大瀧詠一)
大瀧さんのアルバム『NIAGARA MOON』(1975年)収録曲。60年代ジャズのボサノヴァ・ブームをポップスに取り入れたイーディ・ゴーメ『恋はボサ・ノバ』(原題"Blame It on the Bossa Nova"、バリー・マン&シンシア・ワイル、1963年)へのアンサー・ソング。「メレンゲ」はダンス・ステップの一種。大瀧さんによると「ギロ」が前面に出てくる音楽だそうです。原曲がパロディであったことの証左にイントロ、アウトロが不自然なリズムになっているそうです。ボーカルは当時ティン・パン・アレイが関わっていたアグネス・チャンにも似ているようです。
3.ドリーミング・デイ(大貫妙子・作詞、山下達郎・曲)
オリジナルは山下達郎さん、『NIAGARA TRIANGLE Vol.』(1976年)。
4.ONe Fine Day(G.Goffin / C.King)
原曲は黒人女性グループ、シフォンズ(1963年)。作曲がキャロル・キング。アレンジはニューオリンズのR&Bバンド、ミーターズ(The Meters)(1969年‐1977年)。大瀧さんがライナーノーツで述べていますが「オーバー・プロデュース」のようです。
5.Walk With Me(H.Greenfield, N.Sedaka)
ニール・セダカのヒット曲『悲しきクラウン』(1962年)のB面収録曲。来日時同じビクター所属の新人歌手・佐川満男にこの曲を提供し、佐川満男のデビュー曲となっています(邦題『二人の並木道』)
6.こんな時(大瀧詠一)
原曲は『Go! Go! NIAGARA』(1976年)。適当な大雨のSEがなく「豪雨」になってしまったと反省されています。
Side-2
1.The Very Thought Of You (R.Noble)
レイ・ノーブル作のスタンダードナンバー。ほとんどが男性歌手のものだそうですが、本盤では男女のデュエット曲に仕立てたところがよい仕上がりになっています。大瀧さんはリッキー・ネルソンのカヴァーで知ったそうです。『A LONG VACATION』はリッキー・ネルソンのアルバムタイトルを転用したものだそうです。
2.Whispergin (J.Schonberger / R.Coburn / V.Rose)
フランク・シナトラのカヴァーが有名なスタンダード・ナンバー。本盤ではNino Tempo & April Stevense という男女デュオの曲(1963年)をそのままカヴァーだそうです。ファルセットを多用した原曲のカヴァーはかなり難しかったようで、大瀧さんのファルセットは好みの分かれるところかも知れません。
3.Tonight You Belong To Me (B.ROse / L.David)
姉妹デュオ、Patiernce and Prudenceのカヴァー(1956年)で知られるスタンダード曲。デュエットはシリア・ポールの実姉ポール聖名子(60年代のコロンビア・レコード歌手)。
4.Oh Why (P.Spector)
「アルバムには1曲バラードが必要だ」という大瀧さんの理念から収録。フィル・スペクターの作品。スペクターが在籍していて唯一のバンドThe Teddy Bears"The Teddy Bears Sing”(1959年)収録曲。
5.Cha Cha Charming ( E.Greenwich)
60年代ポップスの作曲家、エリー・グリニッチが歌手エリー・ゲイ名義で発表した曲(1958年))。シリア・ポールさんは大瀧さんからの「10歳若返って歌ってほしい」というリクエストに応え、ちょっとお茶目な感じに仕上がっています。
6.夢で逢えたら、もう一度(大瀧詠一)
山下達郎さんのストリング・アレンジによるカラオケ・バージョン。これ単独でも傾聴に値する名曲ですね。余韻残したままアルバム終了です。