片岡義男さんの映像作品のみでビートルズ、ディラン、プレスリーを語る、という新刊。
本日はビートルズ編。(片岡義男さんは義理堅く「ザ・ビートルズ」という表記)。
DVD10作品からザ・ビートルズとは何だったのか、またそのビートルズを映像化した「彼ら」、演じた「彼ら」を語ることによって、音源からの評論では表せない新機軸となりました。
目次はDVDのタイトルを直接表しておらず、片岡さんの小説のタイトルの列挙のようでもあります。採用したDVDには著名な主演作品が漏れているというか、最初から選んでないようです。片岡義男さんが選択したという時点で評論になっていると思いますので、煩雑ですが、採用されたDVDを紹介します。ビートルズは10作品です。
<目次>
いまからザ・ビートルズをDVDで観る。
①さきにかねをもらわないと
②ご家族みんなのザ・ビートルズ
③Can you hear me? Hello?
④If that question waqs a joke, it wasn't funny.
⑤もとの生活にもどるための努力はしたけれど
⑥それもアストリッドが作った
⑦THE BEETLESと綴られたことはなんどもある
⑧事実の断片をつなぎ合わせると、それはひとつの美しいフィクションになる
⑨ジャッキー・デシャノンと飛行機のなかでモノポリー
⑩Please don't write anymore.
<採用されたDVDの紹介>
著者が採用したこと自体が批評と思いますのでタイトルと簡単な解説を。かっこ内はDVDの発売日ではなく映像の発表時点の年代です。
①さきにかねをもらわないと
"The First U.S. Visit" (1964)
初のアメリカ・ツアーのドキュメンタリー。音楽映画の手法「シネマトグラフィ」のスタンダード。
ツアーに密着して舞台裏まで撮影したもの。
②ご家族みんなのザ・ビートルズ
"The Four Complete Historic Ed Sullivan Shows featuring The Beatles and other artist invluding" (1964,1965)
ビートルズが出演した『エド・サリヴァン・ショー』4回分の映像(CM含む)。
③Can you hear me? Hello?
"The Beatles At The Shea Stadium" (1965)
1965年夏のアメリカ公演のライブ映像。
④If that question was a joke, it wasn't funny.
The Beatles(ビートルズ)/LIVE IN JAPAN MEMORIAL 1966 SPECIAL EDITION (1966)
1966年の日本公演の記録、ライブ映像+記者会見他。片岡さんは本編でなく頓珍漢な記者会見に注目。
⑤もとの生活にもどるための努力はしたけれど
"That'll be the day" (1973)
1973年のイギリス映画。リンゴ・スターが端役で出演している以外ビートルズとの接点はありません。なぜか片岡さんはリンゴ・スターの髪型が気に入った様子です。
片岡さんの引用は自分を捨てた父のセリフ。
Summaries
Abandoned by his father at an early age, Jim MacLaine (David Essex) seems to have inherited the old man's restlessness. Despite his apparent intelligence, Jim decides not to take the exams that would pave his way to university. He lives, for a time, a life consisting of dead-end jobs and meaningless sex, before returning home to work in his mother's shop. But still he can't settle down. He begins to think that the life of a pop musician might be the thing for him.
George S. Davis <mgeorges@prodigy.net>
⑥それもアストリッドが作った
"Backbeat" (1994)
1994年のイギリス映画。舞台は1960年のリヴァプールから1962年のハンブルグ時代。ハンブルグ時代はドラムスがピート・ベスト、サブのベース奏者にステュアート・サトクリフの5人編成。主人公をサトクリフに据えて、出会ったアストリッド・キルヒヘルという女性との関係を通してビートルズが芸術性に目覚める、という映画。メジャー・デビューの時の髪型をストリッドが作ったという挿話。
⑦THE BEETLESと綴られたことはなんどもある
"I Wanna Hold Your Hand" (1978)
1978年アメリカ映画。舞台は1964年のアメリカ。アメリカ人のおっかけ女性3人が主人公でビートルズは足元とかの間接映像しか出ないというコメディ。たしか小林信彦さんが褒めていたような記憶があります。映画の出来はさておき着眼点が面白いです。
⑧事実の断片をつなぎ合わせると、それはひとつの美しいフィクションになる
"Nowhere Boy" (2009)
ジョン・レノンがビートルズの前身ザ・クオリーメンを結成するまでの物語。目次は片岡さんの言葉。P67
「事実の断片をいくつもつなぎ合わせると、そこに生まれるのはひとつの美しいフィクションである、と教えてくれる映画だ。」
⑨ジャッキー・デシャノンと飛行機のなかでモノポリー
"Beatles Stories" (2011)
ビートルズとなんらかの形でかかわった人々へのインタビュー集。政策は1960年生まれのアメリカ人歌手、セス・スワースキー。
A big fan of The Beatles growing up in the 60s, Seth Swirsky noticed that whenever he heard someone relating a story about themselves and The Beatles, he was "all ears". So, starting in 2005, he sought out and filmed those with never before heard, "Beatles Stories".
Mike Pope
⑩Please don't write anymore.
"Good Ol' Freda" (2013)
日本語タイトル『愛しのフリーダ』。1962年から1972年までエプスタインの秘書だった女性の回顧録。編集に関わっていたファンクラブの会報にフリーダが最後に書いた言葉を片岡さんが引用。
<感想のようなもの>
片岡さんはビートルズの主演音楽映画には興味がなくて、ビートルズ出現前後の社会現象に興味があったようです。エルヴィス・プレスリーが登場した時のような衝撃はなかったという断定が新鮮でした。
DVDでは『エド・サリヴァン・ショー』の4回分の映像の解説が秀逸。このDVDでは当時のテレビ・コマーシャルまで完全に採録されており、片岡さんのCM解説はまるで考古学者のようです。(まあ60年前の話なので当然でしょうか)。
P22
Something for everybody.というこの番組の方針を、ザ・ビートルズはきれに体現している。スティーヴやシーラの歌に喜んで拍手する人たちがいれば、ザ・ビートルズの演奏と歌に拍手する人たちもいる。どの人たちも、この生番組を客席で見ている観客たちだ。Something for everybody.を日本語で言うなら、ご家族みんなで楽しめる、とでもなるだろう。ご家族みんとは、保守の見本ではないか。そのような雰囲気を出せ、と番組のほうがザ・ビートルズに強く求めたのではない。ザ・ビートルズが番組の雰囲気に自分たちを無理して合わせたのでもない。パラーフォンからデビューしてアメリカ公演にいたるまでのザ・ビートルズは、そもそもこのような中道的な雰囲気を持っていた。彼らはそのような人たちだった。
<蛇足>
執筆とタイミングが合わなかったのかも知れませんが、ビートルズのいない世界にスリップする売れないミュージシャンを描いた佳作 "Yesterday"(2019)も加えてほしかったです。この映画ではビートルズの楽曲がすでにパブリック・ドメインであることを主張していて面白かったです。