2021年10月30日土曜日

[惹句どんどん] 辰野隆(フランス文学者)

 



『坊っちゃん』は類型を目指して
しかも類型を描き得た小説である。



『坊っちゃん』とは、その題からして、類型に与えられた名である。『坊っちゃん』の中に出てくる人物は坊っちゃん始め、狸も赤シャツも山嵐をのだいこもらなりも清も、ことごとく類型ならざるはない。しかもそれらの類型がいずれも溌剌として活躍している。それは、類型が作品の上ではあくまで類型として取り扱われていながら、読者の胸裡には、その類型に生きた性格―人物と言った方がいいかも知れぬ―をまざまざと描かしむるからである。そこに天才と凡才との岐路が見える。


『坊っちゃん』管見(昭和9年)より

集英社版『漱石文学全集第2巻』(昭和57年)より孫引き