2021年10月7日木曜日

[積読立読斜読] 『ビートルズ』(北中和正著、新潮新書、2021年)




今年の前半は、「ビートルズの全曲213曲をアナログ・レコードで聴きなおす」という企画をやりました(個人的に)。新潮新書でビートルズ入門書がでたので読んでみました。


2021年の11月25・26・27日の3日間、動画配信サイトディズニープラスで配信される、ドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ: Get Back』の上映に合わせた出版かと思われます。ヴェテランの音楽評論家、北中和正さんが新潮選書でのビートルズ入門書。


内容は類書のように編年体をとらず、ビートルズの代表曲(時にあまり知られていない曲」のバックボーンを探ることで、ビートルズの音楽が(1)60年代のイギリスの社会に深く根差していた、と同時に(2)特定の社会や時代を超えたところも持っていた、という視点で解き明かします。


たとえば、ビートルズのツール音楽として、ジョン・レノンの祖父が関わっていたかもしれない19世紀のミンストレル・ショウの歴史を遡り、ジョンとポールを結び付けた1950年代のスキッフル・ブームの中身を点検するといった内容です。


章題の挙げられたビートルズの曲を知っていないとハードルの高い新書ではありますが、著者の幅広いワールド・ミュージックへの知見を土台にした論評は、新しいビートルズ像として、また新たな解釈となると思います。


以下、新潮社のサイトより引用します。

[内容紹介]

1970年のグループ解散から数えて、すでに半世紀。にもかかわらず、いまなおカリスマ性を失わず、時代、世代を越えて支持され続けるビートルズ。いったん頂点に上り詰めても、たちまち忘れ去られるのが流行音楽の常なのに、なぜ彼らだけは例外なのか――。世界各地のポピュラー・ミュージックに精通する音楽評論の第一人者が、彼ら自身と楽曲群の地理的、歴史的ルーツを探りながら、その秘密に迫る。


[目次]

はじめに

序章 なぜビートルズだけが例外なのか

労働者階級/自作自演/世界で10億枚/変化し続けたグループ/「一過性」から「歴史」へ/政治的発言/前例のない文化現象


【1】故郷リヴァプール

「マギー・メイ」「ペニー・レイン」をめぐる章


田舎者扱い/植民地貿易の拠点/奴隷貿易による繁栄/メルヴィルとモービー/イギリス初の鉄道/ビートルズの青銅像とゴレー通り/空襲による衰退/リトル・アメリカ


【2】ジョン・レノンはアイルランド人か

「マイ・ボニー」「悲しみはぶっとばせ」をめぐる章


U2ボーノの発言/トニー・シェリダン&ザ・ビート・ブラザーズ/ドイツから取り寄せた25枚/民族と宗教/4人のルーツ/ベルト・ケンプフェルト/レイ・チャールズへの憧れ/ボニーとは誰か/ロッド・スチュワートとスティング/アイルランドの音楽/ボブ・ディランの影響/新天地ニューヨーク


【3】ミンストレル・ショウの残影

「ミスター・カイト」「フリー・アズ・ア・バード」をめぐる章


ジョン・レノンの祖父の経歴から/ブラックフェイス/イギリスでも流行/混血のサーカス団長とミスター・カイト/奴隷解放と黒人霊歌/ミュージック・ホール/BBCのミンストレル・ショウ/バンジョーを弾いていたジュリア


【4】スキッフルがなければ

「レディ・マドンナ」「ハニー・パイ」をめぐる章


手作りの楽器を使い演奏/南部からシカゴへ/ロニー・ドネガン/エルヴィスにはなれなくとも/ジョンとポールの出会い/バディ・ホリー調/ブギウギ風のピアノ


【5】作品の源流はどこに?

「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」「イエスタデイ」をめぐる章


あらゆるタイプの音楽の影響/両親も気に入る曲を/ジョンもロック一筋ではない/「バス内の合唱」はロック以外の曲/「ポップ」の定義とは/ジャズ、R&B、カントリー/ビートルズ登場前夜/ロックンロールとロックの関係


【6】カヴァー曲、R&B、ラテン音楽

「ベサメ・ムーチョ」「ツイスト・アンド・シャウト」をめぐる章


エルヴィスが壊した人種の壁/ジョージの「早熟」「通」/リトル・リチャード以後/黒人音楽のカヴァーの多さ/単なる模倣を超える/消えた「べサメ・ムーチョ」/キューバ音楽「ソン」の影響/ラテン系リズムのヒット曲/音楽の歴史のうねり/「アイ・フィール・ファイン」もラテンだった


【7】カリブ海、アフリカとの出会い

「蜜の味」「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」をめぐる章


大戦後に激増した移民/カリプソ歌手たち/スティール・ドラム/ハンブルクへの道/年齢詐称の入れ知恵も/舞台はマンチェスター/ジャマイカのリズム「スカ」/アイランド・レコード/ライフ・ゴーズ・オン/3度のレコーディング/ジャンルとして定着


【8】60年代とインド音楽

「ノルウェーの森」「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」をめぐる章


ロックの定義の更新/コーナーショップ/『ヘルプ!』に登場したインド人/何でもあり/『チベットの死者の書』/狂気を通訳したジョージ・マーティン/ラヴィ・シャンカルに弟子入り/ワールド・ミュージックの先取り/インド行き/ゴッドファーザー、ラヴィ


【9】ふたつのアップルの半世紀

「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」をめぐる章


係争を繰り返した両者/モノクロからカラーへ/完成までに5週間/オリジナリティと創造性/強い共感/空想は現実より素晴らしい/「ビジネスの手本はビートルズ」


【10】ビートルズはなぜ4人組か

「アイ・アム・ザ・ウォルラス」「ゲット・バック」をめぐる章


ハンブルクでは5人組/電気的なサウンド/放送禁止された「危険な」エレクトリック・ギター/電気エネルギー時代の象徴/既成の価値観が問われた時代/「彼らはお互いに属している」/青春物語の終わり/ヴァーチャルなバンドと幻の聴衆


おわりに

主な参考文献


[その他紹介文]

薀蓄倉庫

ジョージ・マーティンも偉大だった

 商業的な成功と社会的な名声を手にしたビートルズは、実験的な音楽にも挑戦します。代表作『リヴォルヴァー』に収録された「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」もその1つ。しかし、メロディ展開のない常識外れのこの曲がレコーディングできたことについて、ジョージ・ハリソンは、プロデューサーのジョージ・マーティンへの感謝を後日こう語っていました。「彼はいつもそばにいて、ぼくたちの狂気を通訳してくれた」。著者の北中正和さんはこうしたジョージ・マーティンの能力は、かつて彼が所属していたレコード・レーベル「パーロフォン」の多様な音楽の価値を認めてきた伝統に根ざしたものと指摘し、同じ時期に実験的な音楽を志しながらキャピトル・レコードの理解を得られなかったビーチ・ボーイズの不幸と対照的だと記しています。

掲載:2021年9月24日


担当編集者のひとこと

ビートルズは何からできているのか。

 どちらかというとワールド・ミュージックのイメージが強い北中正和さんに、ビートルズについて書いていただきました。とはいえ北中さんはポピュラー音楽評論の第一人者ですから、日本の歌謡曲にも詳しいし(『にほんのうた 戦後歌謡曲史』新潮文庫版は絶版、現在は平凡社ライブラリーから)、もちろんポピュラー音楽史に残る大事件であるビートルズについても詳しい。先日、担当編集者の実家に転がっていた1976年の音楽雑誌では「ビートルズの全アルバム徹底視聴!」という特集の中で、「ラバー・ソウル」を担当執筆されていました。

 とはいえ『ビートルズ』は、彼らについての知られざるエピソードを紹介するビートルズ・マニア向けの本ではありません。書かれているのは主に「ビートルズ(とその音楽)は何からできているのか」ということについてです。北中さんはそのために、ジョン・レノンの祖父が関わっていたかもしれない19世紀のミンストレル・ショウの歴史を遡り、ジョンとポールを結び付けた1950年代のスキッフル・ブームの中身を点検します。音楽の地理・歴史という点から見ると非常にマニアックではありますが、ビートルズ好きの上級者にも初心者にも、大変役に立つ本になっております。

2021/09/24


[著者プロフィール]

北中正和(キタナカ・マサカズ)

1946(昭和21)年奈良県生まれ。京都大学理学部卒業。音楽評論家。東京音楽大学講師。日本ポピュラー音楽学会、ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。著書に『ロック史』(立東舎文庫)『毎日ワールド・ミュージック』(晶文社)『にほんのうた』(平凡社ライブラリー)な