長男耕一、明けて四つなり
さびしさは木をつむあそびつもる雪
草の丈
日暮里のころ(大正十二年十一月―昭和九年)
30 味すぐるなまり豆腐や秋の風
31 ひぐらしに燈火(ともしび)はやき一ト間かな
32 硝子戸に風ふきつくる蜻蛉かな
33 墓原のまばゆく晴れし蜻蛉かな
34 吉原のある日つゆけき蜻蛉なか
長男耕一、明けて四つなり
35 さびしさは木をつむあそびつもる雪
36 春の夜のぬかぼしこぞるくもりかな
37 音立てゝ雨ふりいづる春夜かな
38 したゝかに水をうちたる夕ざくら
39 金魚の荷嵐の中に下ろしけり
40 親と子の宿世かなしき蚊遣かな
すぐる:勝ぐる
なまり豆腐:生節:カツオの加工品、ほぐして食べる
墓原:墓所
つゆけき:露けき、露にぬれて湿っぽい
ぬかぼし:糠星、夜空の多数の星
こぞる:挙る、ことごとく集まる
いづる:出る
長男耕一、明けて四つなり
35 さびしさは木をつむあそびつもる雪
初案は「淋しさはつみ木あそびにつもる雪」、再案は「淋しさはつみ木のあそびつもる雪」、そして最終形が「さびしさは木をつむあそびつもる雪」。再案でまずつみ木あそびと雪とを分けて、最終形ではつみ木ということばまで解体されています。心を開かぬ子供の姿を描いた句が、人間存在の孤独を描く句にまで育っていく、と解説されています。
『万太郎の一句』(小澤實著)より
