2021年10月11日月曜日

[積読立読斜読] 『久保田万太郎俳句集』(岩波文庫、2021年)(4)

 





長男耕一、明けて四つなり

さびしさは木をつむあそびつもる雪





草の丈

日暮里のころ(大正十二年十一月―昭和九年)


30 味すぐるなまり豆腐や秋の風


31 ひぐらしに燈火(ともしび)はやき一ト間かな


32 硝子戸に風ふきつくる蜻蛉かな


33 墓原のまばゆく晴れし蜻蛉かな


34 吉原のある日つゆけき蜻蛉なか


長男耕一、明けて四つなり

35 さびしさは木をつむあそびつもる雪


36 春の夜のぬかぼしこぞるくもりかな


37 音立てゝ雨ふりいづる春夜かな


38 したゝかに水をうちたる夕ざくら


39 金魚の荷嵐の中に下ろしけり


40 親と子の宿世かなしき蚊遣かな




すぐる:勝ぐる


なまり豆腐:生節:カツオの加工品、ほぐして食べる


墓原:墓所


つゆけき:露けき、露にぬれて湿っぽい


ぬかぼし:糠星、夜空の多数の星


こぞる:挙る、ことごとく集まる


いづる:出る



長男耕一、明けて四つなり

35 さびしさは木をつむあそびつもる雪


初案は「淋しさはつみ木あそびにつもる雪」、再案は「淋しさはつみ木のあそびつもる雪」、そして最終形が「さびしさは木をつむあそびつもる雪」。再案でまずつみ木あそびと雪とを分けて、最終形ではつみ木ということばまで解体されています。心を開かぬ子供の姿を描いた句が、人間存在の孤独を描く句にまで育っていく、と解説されています。


『万太郎の一句』(小澤實著)より