ビートルズ『レット・イット・ビー』発売50周年記念特別企画
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だが、このセッションは、ほとんどの部分はうまくいっていた。マッカートニー、ハリスン、スターのリズム・セクションのゲストのキーボード奏者ビリー・プレストンと意見が食い違うこともあったが、それでも意外なほど引き締まったものになった。「ゲット・バック」の一番最初のウォーミングアップのリハーサルから、特にリンゴのドラムは正確で、てきぱきときれいなストロークで、積極的にビートを打ち出していた。一方、ポールの元気のいいリード・ヴォーカルは、たとえ観客があまり見えなくても、再びその前に立てた喜びが表れていた。
屋上のコンサートは、常にそれに追いかけれれていた人気というモンスターに対して、思い切り裏をかいたポールのアイデアだった。そもそもアップル社の屋上は、ビートルズを世界のステージから引きずり降ろしてしまったような熱狂的なファンに、もみくちゃにされることなくライブができる、彼らに残された唯一の場所だった。それにmおし、白昼ロンドンのダウンタウンでロックン・ロールを勢いよく始めて、ビジネスを中断させるような大騒ぎになるとしたら、それもかえっていいかもしれない。ショーは大いに盛り上がるだろうからである。
ビートルズのライブのエネルギッシュなようすを見ていると、彼らの誰もが、その音楽的な感性を失っていないことは明らかだが、一番楽しんでいるように見えたのは、ジョンとポールだった。このバンドがオーディションに通りますように、というジョンの有名な締めの言葉は、彼とポールがそのステージではとほんと言いっぱなしだったジョークのうちの一つにしかすぎない。まず「ゲット・バック」のウォーミングアップのリハーサルに、屋上に同行した仲間たちからパラパラと拍手が送られ、ポールがそれをクリケットの試合の観客になぞらえて、「まるでテッド・デクスター(注:当時の有名なクリケットの選手)がもう一点入れたみたいだ」とおどけてみせた。
負けじとばかり、ジョンも明快な歌うような声で、相の手を入れている。「マーティンとルーサーからのリクエストにお答えしました。」そして、ついに警察が来て中止するようにとの命令があった時、ビートルズは「ゲット・バック」の最後の演奏にはいっていたのだが、ポールがアドリブで、曲の中のヒロイン、ロレッタに話しかけるようにこう歌っている。「君はまた屋根の上で演奏しているが、それはよくない……ママは警察に君を逮捕させちゃうぞ」
内輪のジョーク、突飛な言葉遊び、権力に対する陽気なからかい。栄光と狂気の入り混じったこの何年間かがどこかへ行って、キャヴァン・クラブでのビートルズ、あの四人の若い天才たちが世界を征服して、一世を風靡しようとしていた時代に戻ったかのようだった。
『ビートルズ』(マーク・ハーツガード著、湯川れい子訳、ハルキ文庫、2019年)より。
