まずはエリック・ホッファーの話から。
エリック・ホッファー(1902-1983)はアメリカの社会哲学者。正規の学校教育を受けておらず、沖仲仕として働きながら独学でUCRAバークレー校の政治学研究教授となりながらも、沖仲仕の仕事は続けた。代表的な著作に『波止場日記 - 労働と思索』。
このエリック・ホッファーをタイトルとして、歴代の16人の在野研究者を描いた『これからのエリック・ホッファーのために:在野研究者の生と心得』(荒木優太著、東京書籍、2016年)でスマッシュ・ヒットを飛ばした、本人も在野研究者である荒木優太氏が、こんどは現役で活躍中の(日本の)在野研究者15名に執筆を依頼したのが、本書『在野研究ビギナーズ ― 勝手に始める研究生活』(荒木優太著、明石書店、2019年)です。
紀伊国屋書店が人文部門の書籍を対象に選ぶ「紀伊国屋じんぶん大賞2020年」でしぶとく3位に入り、その紀伊国屋(ゆめタウン広島)の平台で目に付いたので、少し知的に背伸びして購入しましたが、これが痛快無比。大推薦。
「在野」とは大学に所属を持たない学問研究のことを指し、「研究」はもちろん研究ですが、執筆者の中では、本人は趣味の範囲を出ないという認識の方もおられ、ここら辺りがアカデミックでない面白さかもしれません。
在野なのでほとんどの研究者が別に職業を持ち、高額な装置を備えられないので文科系の研究がほとんどです(蠅の研究をしている熊澤氏を除く)。
本書は三部構成。
第一部は「働きながら学術論文を書く」在野ながらアカデミックに近い立場の人たち。
第二部は、「学問的なものの周辺」、学界に馴染まない研究で、趣味の延長線上にあるとも言える研究者。第三部は在野研究に役立つ知のインフラを紹介した「新しいコミュニティと大学の再利用」。
個人的に興味深かったのは、行政職の公務員でありながら妖怪に憑りつかれ『日本現代怪異辞典』等を刊行した朝里樹(あさざといつき)氏、地域おこし協力隊で赴任した津和野町で哲学科出身ということで西周の研究を促され、大学と地域を結んで西周の研究事業を継続している石井雅巳氏の例です。
いずれの執筆者の仕事と研究の両立(特に経済面)では苦労されながらも、「学問は面白い」と断言できる強さを持っておられ羨ましく感じました。
一番の功績は編著者の荒木優太氏、目次をマトリックス化する編集力を見ただけでも只者ではありません(序文は屈指の名文です)。
硬軟ありますが、著者すべてが研究も含め輝かしいライフストーリであり、成果や功績は二の次で、学問とは本来功績を求めず、自分の興味の方向に向かってただ進んでいくものだったはず、ということを認識しました。
<目次>
序 あさっての方へ
第一部 働きながら論文を書く
第一章 職業としない学問/酒井大輔
第二章 趣味の研究/工藤郁子
第三章 四〇歳から「週末学者」になる/伊藤未明
インタビュー1 図書館の不真面目な使い方 小林昌樹に聞く
第四章 エメラルド色のハエを追って/熊澤辰徳
第五章 点をつなごうとする話/内田明
第二部 学問的なものの周辺
第六章 新たな方法序説へ向けて/山本貴光+吉川浩満
第七章 好きなものに取り憑かれて/朝里樹
第八章 市井の人物の聞き取り調査/内田真木
第九章 センセーは、独りでガクモンする/星野健一
第一〇章 貧しい出版私史/荒木優太
インタビュー2 学校化批判の過去と現在 山本哲士に聞く
第三部 新しいコミュニティと大学の再利用
第一一章 〈思想の管理〉の部分課題としての研究支援/酒井泰斗
第一二章 彷徨うコレクティヴ/逆卷しとね
第一三章 地域おこしと人文学研究/石井雅巳
インタビュー3 ゼロから始める翻訳術 大久保ゆうに聞く
第一四章 アカデミアと地続きにあるビジネス/朱喜哲
在野のための推薦本
<荒木優太氏のプロフィール>
荒木優太
1987年東京生まれ。在野研究者(専門は有島武郎)。明治大学文学部文学科日本文学専攻博士前期課程修了。2015年、第59回群像新人評論優秀賞を受賞。著書に『これからのエリック・ホッファーのために――在野研究者の生と心得』(東京書籍)ほか、『貧しい出版者』(フィルムアート社)、『仮説的偶然文学論』(月曜社)、『無責任の新体系』(晶文社)、『在野研究ビギナーズ-勝手に始める研究生活』(明石書店)など。
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