私は、われわれが既に失いつつある陰翳の世界を、せめて文学の領域へでも呼び返してみたい。
文学という殿堂の檐(のき)を深くし、壁を暗くし、見え過ぎるものを闇に押し込め、無用の室内装飾を剥ぎ取ってみたい。
それも軒並みとは云わない、一軒すらいそう云う家があってもよかろう。
まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。
『陰翳礼賛』(谷崎潤一郎)より