あなたが右手で日本語の文字を書いているのは、 生まれた時から遺伝子で決まっていた必然ではない。
しかし、何十年もの日常行動の蓄積で体得した慣習だ。
明日から左手でヘブライ文字を書いて生活しろといわれても、それができるだろうか?
過去に達成された合意を、いちがいに否定することはできない。しかし1980年代までとは、国際環境も技術水準も変わった。かつての社会契約は、社会を統合する機能を低下させている。この状態は、日本の社会意識の変容がみられ、新たな合意を形成する
必要が生じていることを示している。
しかしながら、「しくみ」を変えることは、そう簡単ではない。それは歴史的な過程を経て築かれた合意であり、慣習の束であるからだ。(中略)
あなたが右手で日本語の文字を書いているのは、生まれた時から遺伝子で決まっていた必然ではない。しかし、何十年もの日常行動の蓄積で体得した慣習だ。明日から左手でヘブライ文字を書いて生活しろといわれても、それができるだろうか?人間は自らの歴史をつくるが、それは過去から受けついだ所与の状況という、一定の制限のもとにおいてである。ある社会の「しくみ」とは、定着したルールの集合体である。人々の合意によって定着したものは、新たな合意を作らない限り、変更することはむずかしい。
『日本社会のしくみ』(小熊英二著、講談社現代新書、2019年)P568
気鋭の社会学者・小熊英二氏による現代日本論。雇用・教育・福祉を軸に展開されています。現代日本のある種の閉塞感は、かつて有効だった「日本のしくみ」に軋みが出ているのが原因だと思います。変革には時間がかかるかも知れません。
