すみません小説好きなものでして。
著者のジェニファー・イーガンは1962年シカゴ生まれ。この不思議な魅力の小説はポスト・ベビーブーマー世代の"the Great American Novel"への回答です。かつてフィリップ・ロスが同じ小説化のフランク・ノリスの言葉を自著のエピグラフと小説の題名に使ったことがあります。
"the Great American Novel is not exinct like the Dodo, but mythical like the Hippogriff..."(Frank Norris).
フィリップ・ロスは「偉大なアメリカ小説」の題材としして「野球」を選びました。イーガンが選んだのはロックとロック的な人生を送った一人の女性でした。
『ならずものがやってくる』(ジェニファー・イーガン著、谷崎由依訳、早川書房、2012年)。原題は"A Visit from the Goon Squad".広島県立図書館より借覧。旧刊ですが。
たくさん登場人物が出てきて、主人公らしき人物は、最初の2つの短編に出てくる。元パンクロッカーのベニーと、盗癖があるその秘書のサーシャですが、13の短編から構成されるロンド形式の長編小説である本作は、必ずしもこの二人が登場せず、周辺の人物を描く章もあり、時間も過去、現在、未来と行き来し、場所もニューヨーク、サンフランシスコ、アフリカ、ナポリと動きます。ご丁寧に目次に"A","B"として章をまとめてあることから、ロックのコンセプトアルバムを模したものだと分かります(A面、B面なので、レコード世代ですけれど)。テーマはロックと時間です。全部を読んで最初のプルーストのエピグラフを読めば納得です。
「詩人たちは言う。若かったころ住んでいた家なり庭なりに入るとき、人はずっと以前にそうであった自分を束の間取り戻すと。しかしこの巡礼はたいへんな賭けであり、成功するのと同じぐらい、落胆に終わることも多いのだ。あらゆる時間を通して同じである場所は、むしろ自分自身の内側に探し求めるほうがよい」
「他者の生における不可知の要素は、自然におけるそれと似ている。それは科学者たちの発見によって減ることはあるものの、完全になくなることは決してない」
マルセル・プルースト『失われた時を求めて』
最終章は圧巻で、正直途中の章には出来不出来がありますが、この章だけで本書は満足です。
冒頭で「ポスト・ベビーブーマー世代の"the Great American Novel"への回答です」と書きましたが、構成はおそらく最初編年体で書き進み、あとからシャッフルしたのだと思います。
またたぶん小説では初めて12章そのののがプレゼンテーション・ソフトで書かれています。近未来の描写も含めて、著者がIT好きなのがわかります。亡くなったスティーブ・ジョブズのガールフレンドだったそうで、ジョブズとの会話からヒントを得たところもあるのかも知れませんね。
著者のサイトにあるプレゼンの原本
登場人物が多いので、アメリカのファンのサイトでは人物相関図が多数ありました。
アメリカでは各賞を総なめのようです。ピュリッツァー賞、全米批評家協会賞、ロサンゼルス・タイムズ文学賞受賞などなど。たぶんいろいろ知らないエピソードが盛り込まれており、副次的にもかなり長く楽しめそうな小説でした。小説版のサウンドトラックがあっても良いかも知れません。

