[積読立読斜読](つんどく・たちよみ・ななめよみ)は私の読書メモです。
『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短編29』(2019年2月25日)はイギリスのペンギン・ブックス社の依頼で村上春樹さんの英訳者として著名なジェイ・ルービン氏が従来の選択基準とは変わって単に「自分の好きな」作品ばかり集めた日本文学の短編集です。
英語版出版に際し、村上春樹さんが長文の解説を書いています。
逆輸入の日本文学短編集ですが、日本の読者はオリジナルの日本語で読むことができます。
私は1959年生まれで、加齢による体力の衰えから、短編集を一気に読む読書力がなく、一編読んでは一感想を書く、というのを続けてきました。
もう少しで読了となります。
本を買う時はあまり価格を気にしてませんが、改めて価格を見ると、3,600円(税別)もする豪華本?だったのですね。
今回は佐藤友哉さんの「今まで通り」という非常に怖い短編を読みました。雑誌『新潮』(2012年2月号)に他の東日本大震災関連の作品と共に掲載された短編です。佐藤さんは1980年北海道生まれ。私の読書傾向とは違う作家さんなのか、名前も知らず、作品を読んだのは初めてです。
作品は東日本大震災で罹災した乳児をもつ若い母親のモノローグで始まります。(直接の地名、日付は出てきません)。
P477
大きな地震と、それによって原子力発電所が爆発して、放射性物質がばらまかれたというニュースを見ても、なにもなかった。地震はすごかったけれど、すんでしまえばそれだけだし、原発についても、私の住んでいる場所からずいぶんはなれているので、あまり切迫したきもちにはならなかった
周囲の混乱をよそに母親は表面上は「今まで通り」の生活を続ける。
P476
いっぽう、私の夫は、規則ただしいスケジュールで家に帰ってくるし、私と赤ちゃんを愛している。親族やマンションの管理人も、赤ちゃんを愛している。そして私は、赤ちゃん以外のみんなを愛している。だれもうらぎりたくない。
だから、放射性物質がひろがったのを知ったとき、私はとにかくほっとした。
母親は実はモンスターであり、人知れず放射性物資を(汚染された野菜、水など)を乳児に与え続けつづけます。自分の赤ちゃんを人知れず殺したい願望を持っています。
義母と夫の勧めで疎開することが決まりましたが、事前に調べたネットの情報では、「絶望的な状況を示すものは、いくらでも見つけることができた。」(P483)
この恐ろしい母親は何者なのか?
原発事故が起こっても「今まで通り」発電を続けて止まない国家そのものと私には思えました。
P480
国は汚染食物や汚染水道水に、「ただちに影響はない」とくりかえしているが、裏をかえせば、いつかは絶対に影響をうけると宣言しているようなものだ。こうやって毎日、汚染したものを赤ちゃんにあたえていれば、いつかは絶対に死ぬと、国が保証してくれているわけだ。
こうして「今まで通り」疎開先でも従順な若い母親を演じます。
P484
私がやるべきことはなにもない。赤ちゃんに乳をあてえて、おむつをかえて、わかりました、わかりました、いうことをきいているだけでよかった。今まで通り。
だから地獄がひろがったのを知ったとき、私はとにかくほっとした。
原発事故や、遠い戦争を、「何事もなかった」ように過ごしている善良な国民も実はこ
の母親とあまり変わりはないのかも知れませんね。
<佐藤友哉(さとう・ゆうや)のプロフィール>(新潮社のサイトより)
1980年北海道生れ。2001年、『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』で第21回メフィスト賞を受賞しデビュー。2007年、『1000の小説とバックベアード』で第20回三島由紀夫賞を受賞。他の著書に『クリスマス・テロル』『灰色のダイエットコカコーラ』『デンデラ』『333のテッペン』『1000年後に生き残るための青春小説講座』『ナイン・ストーリーズ』などがある。


