[積読立読斜読] 『漱石俳句集』(坪内捻典編、岩波文庫)明治二十九年
186 限りなき春の風なり馬の上
187 乙鳥(つばくろ)や赤い暖簾の松坂屋
188 春の夜の琵琶聞えけり天女の祠(し)
189 路もなし綺楼傑閣梅の花
190 屋の棟や春風鳴つて白羽の矢
191 蛤やをりをり見ゆる海の城
192 霞たつて朱ぬりの橋の消えにけり
193 どこやらで我名よぶなり春の山
194 大空や霞の中の鯨波(とき)の声
195 行春(ゆくはる)や瓊觴山(けいしょう)山を流れ出る
綺楼傑閣:風変わりな大きな建物
海の城:蜃気楼。蜃は大蛤。蛤の吐く気によって蜃気楼が生じると考えられていた。
瓊觴:美しい杯。中国の故事より。
