「さあ土曜日だ」、「あとちょっとだけ」、「巣に帰る」の三篇です。
いずれも作者の実人生での体験を小説にしたもので、「さあ土曜日だ」は刑務所でライティングを教えていた時の体験(ただし主人公は囚人で、作者のライティングの先生ではありません)。原題はライティングの先生が課題として出した作文のタイトル例。レイモンド・チャンドラーの創作ノートにあったタイトルだそうです。
「あとちょっとだけ」は実の妹の死に際しての体験。
「巣に帰る」も自分のティーンエージャーの時の生活体験を作品にしたものです。
いずれもこの作品中では比較的長い作品でそれぞれ読みごたえがありました。
印象に残ったのは「さあ土曜日だ」で、語り手に据えた囚人(男性)の心理描写(独白)が素晴らしく、作者を男性(囚人)そのものと勘違いしそうな筆力です。
訳者の岸本佐和子さんがあとがきで「彼女の声(ボイス)」が日本の作家の誰とも置き換えできないと述べています。
P314
そして声、何よりも彼女の声だ。私は小説を訳すときはいつも、この人と声の似た作家は誰だろうと考えてみる。でもルシア・ベルリンはだめだった。似ている人をうまく思いつけなかった。冷徹な洞察力や深い教養と、がらっぱちな、ケツをまくったような太さが隣り合わせている。悲惨だったり痛ましかったりする過去のできごとについて語るときでも、書き手と文章のあいだにつねに一定の距離があり、そのあわいから得も言われぬユーモアがこぼれ出る。
私は非常に少ない文学的な知識からですが、向田邦子さんの短編・エッセイを想像しました。
