ほとんどの作品が、数奇な人生を送った作者の実体験をもとに書かれているようです。鉱山技師としてチリに派遣され、使用人を多数かかえる裕福な暮らしをしていた少女時代の体験を描いた「いいと悪い」が印象に残りました。
1952年のチリで暮らす多感な少女。カトリック系の学校で修道女から誘われて貧困地域のボランティア経験(それもすさまじい貧困)を明るくえがいて、世の中における「いいと悪い」の境目があいまいなことをそれとなく教えてくれます。
P114
(権力者である父親が修道女を解雇)
だれも何が起こったか知らなかった。ほかの子たちは(アメリカ史を教えていた)彼女がいなくなって喜んだ。授業はみんな自習になった―おかげでわたしたちはアメリカの大学に入ってから、アメリカ史を自分ででっちあげなければならなくなってしまったけれど。わたしには話す相手がいなかった。ごめんなさいと言う相手が。
本日読んだ作品の中で「マカダム」という非常に短い作品も印象に残りました。
「マカダム」はスコットランド人、ジョン・マカダムが発明した廉価な舗装材料のことで、土と石からなる骨材のことだそうです。道路の舗装材料を家族みんなが口に出して、友達のような気がしてくる、底抜けに明るい貧困をさらりと描いて真似ができない作風です。
全文引用してます。
「マカダム」
まだ濡れているときはキャビアそっくりで、踏むとガラスのかけらみたいな、だれかが氷をかじっているみたいな音がする。
わたしもよくレモネードを飲み終わったあとの氷をガリガリかじる。ポーチのスイングチェアでお祖母ちゃんとふたり揺られながら。わたしたちは鎖につながれた囚人たちがアプソン通りを舗装するのをポーチから眺めていた。親方がマグナムを地面に流すと、囚人たちはどすどすと重いリズミカルな足音をたててそれを踏みかためた。鎖が鳴る。マカダムはおおぜいの人が拍手するみたいな音をたてた。
わたしたちは三人とも、その単語をよく口にした。お母さんはいま住んでいるこのゴミためみたいなところが大嫌いで、それでもやっと道路が舗装sれたから。お祖母ちゃんはとにかくきれい好きで、これできっと埃が舞わなくなるだろうから。精錬所から吹いてくるテキサスの赤土に灰色の粉塵の混ざった土埃は家のなかにまで入りこみ、みがいた廊下の床や、お祖母ちゃんのマホガニーのテーブルのうえに降りつもった。
わたしもよく声に出して、マカダム、とこっそり言ってみた。なんだかお友だちの名前みたいな気がしたから。
