2014年9月15日月曜日

<日々是不穏 like a rolling stone>(2014年9月15日(月)) 話題沸騰『21世紀の資本論』



日本語翻訳前から話題沸騰のフランス経済学者ピケティ氏の『21世紀の資本論』(Capital in the Twenty-First Century)。日本版は山形浩生さん他の翻訳で、みすず書房から12月25日の発売だそうです。『東洋経済』でも特集が組まれるほど異例の扱いですが、特に英語版がアメリカでベストセラーになっていることが話題の要因かも知れません。

700ページ近い専門書がアマゾンのベストセラー第1位になり、フランス人の著者が講演のためワシントンにやって来ると、ロック・スター並みの聴衆が集まったそうです。リベラル派の経済学者、ポール・クルーグマンは「ピケティは不平等の統一場理論を発見した」と書評で絶賛したそうです。肝心の著書の内容は、マルクスの資本論と同じく、世界で所得分配の不平等が拡大している事実を明らかにし、その原因が資本主義にあると主張しています。

すでにインタビューを含め何度も新聞記事になってますが、9月12日付けの朝日新聞「耕論」では気鋭の2人の学者の論評が掲載されました。論旨を紹介します。

日本語版がクリスマス明けに出版というのは、何かの皮肉かも知れませんね。知的な話題に遅れないためにも一読してみましょう。


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(耕論)ピケティ論争、格差は宿命か 稲葉振一郎さん、大竹文雄さん(2014年9月12日付け朝日新聞記事)


 ■資産課税では不平等解消せぬ 稲葉振一郎さん(明治学院大学教授)

・20年ぐらい前から、国家間の格差だけでなく、先進国においても国内の格差が無視できないということが経済協力開発機構(OECD)の調査など判明
・主たる原因は人的資本の格差(賃金の格差)だといわれてきたが、ピケティは物的資本の格差(資産格差)であること実証的に示した
・議論の焦点は、市場経済がまともに機能している社会でも、利子率が成長率より大きくなってしまうから、放っておけば不平等が拡大していく(資産格差が拡大する)
・ピケティ氏が主張する不平等是正の政策は、資産への累進課税だが、資産課税によって不平等を減らす努力は、経済を減速させる可能性もある
・格差と成長の関係を考える場合、「レベリングダウン問題」があり、全体の賃金水準を下げながら格差を縮めるという考え方だが、みんなが平等に貧乏になるという政策は正当化できるのか
・平等主義の本来の目的は、不平等な社会で困っている人や弱者を助けることです。でも、手段はいろいろある。平等主義はそのひとつにすぎず、困っている人を助けることと同じではない
・重要なのは平等ではなく、全員がある最低水準をクリアしていることだという考え方もある。むしろこちらの発想のほうが現実の制度づくりには直結してくるかもしれません。
・ピケティ氏の議論は、市場経済の内的メカニズムの結果として不平等が拡大し、社会の連帯性を崩しかねないという危険性を指摘した点では意味がある
・問題提起は重要だが、彼の解答が正しいとは限らない。正しいとしても、診断のレベルの解答と、対策はまた違う
・21世紀の資本論」は、なぜ平等にすることが必要なのかということも含めて、不平等について考えるきっかけにはなる

(いなばしんいちろう 63年生まれ。専門は社会倫理学。著書に「リベラリズムの存在証明」「経済学という教養」「『公共性』論」「オタクの遺伝子」など)。


 ■教育機会の均等化で成長促せ 大竹文雄さん(大阪大学教授)

・論旨は、経済成長が鈍れば所得は伸びず、所得に対する資産の割合が高まる。資産から得られる収益率は、成長率を上回る傾向がある。このため低成長だと、大きな資産を投資に回せる資産家や資本家は、労働者よりますます豊かになっていく
・18世紀以降の長期のデータを分析すれば、資産収益率が成長率より高い時代が普通、第2次大戦後こそが特殊で、今は普通の状態に戻りつつあるという結果は説得力がある
・これから将来、資産収益率も成長率もどうなるかは、分からない。それに物的資本だけに注目して人的資本を考慮していないのも問題
・問題があるにせよ、低成長が続き、少子高齢化でさらに経済が縮小しそうな日本にとって、資産と所得の関係に注目することは有意義だと思います。
・低成長が続くと、勤労者は資産家に太刀打ちできない、と人々が数値以上に格差感を抱き始めた。この現象を解き明かすには、ピケティ氏の議論から説明できる
・格差感を小さくする施策を講ずるべき、ピケティ氏は世界規模で資産、所得への累進課税を導入するよう提案しているが実現は簡単ではない
・日本で喫緊の課題は教育支援で、大学など高等教育機関へ進む道は、資産のない家庭の子どもたちにも同等に開かれるべきである
・競争の機会を等しくするような教育支援は、福祉的な観点から必要なだけでなく、技術革新を促して生産性を高め、社会の持続可能性を維持するためにも欠かせない投資

(おおたけふみお 61年生まれ。専門は労働経済学、行動経済学。著書「日本の不平等」で日本学士院賞。NHK・Eテレ「オイコノミア」講師を務める)。


 ◆キーワード

 <「21世紀の資本論」> 原書はフランス語で昨年出版された。今春出た英訳版の題は「Capital in the Twenty-First Century」で600ページを超える。日米欧などの300年にわたる租税資料を分析し、1914~70年代を例外として、資本の集中と経済的不平等が常に進んでいることを示した。資本主義のもとで不平等が縮小するかに見えたのは二つの世界大戦と世界恐慌がもたらした偶然にすぎないと指摘し、議論を巻き起こした。ピケティ氏は1971年生まれでパリ経済学校教授。邦訳は、みすず書房が出版予定。