2015年4月5日日曜日

[積読立読斜読] 『つなわたり』(小林信彦著、文藝春秋、2015年)



敬愛する小林信彦の最新小説。

『文學界』(2014年12月号)に掲載されたものの単行本化。昭和7年生まれなので今年83歳になられますが、週刊文春に連載中の時評「本音を申せば」は依然好調ですし、老大家と呼ぶにはまだ失礼かと。

1970年代初頭、コラムニストの私は40歳代で昔の彼女の由夏に再開します。実は主人公の私は「中年童貞」であり、女性とはなかなか一線を超えられない悩みがありました。主人公が歪んでしまったのは戦後すぐに古本屋で購入した『私たちの生涯の性の百科事典』を熟読しすぎたせいと気にするあたりは十分に文学的です。

性に対する大人の微妙な含羞を自伝的要素にからめて回想するという手法で、実作ではあまり性に対して踏み込んでこなかった作者の小品ではありますが、作家としての総決算とも読めます。

作者は映画に造詣が深く、新人女優の当たりはずれの予想には定評がありますが、落語から始まって映画に至る過去の膨大な芸能知識が前提で、かつ勤勉なメモ魔でもあるのでしょう、この作品にも当時の風俗の固有名詞がたくさん出てきて、時代の雰囲気の描写に一役買ってます。

最近は自伝的要素を含む作品が多い小林信彦です。この小品は本格的な自伝的小説に描ききれなかったエピソードを軽いサイドディシュとして描いた良品だと思います。

主題とは関係ありませんが、主人公と由夏の新婚旅行は広島です。

<メモ>
p170
<カフカを読み過ぎたディズニー>と呼ばれるエイヴリーは、70年代に入るころから、インタビューに応じたり、ポートレートを公開するようになった。