作者エリザベス・ストラウトは1956年アメリカの東海岸メイン州ポートランド生まれ。2008年に『オリーヴ・キタリッジ』でピュリッツァー賞受賞。フランシス・マクドーマンド主演でTVドラマ化されました。両作品ともアメリカの現在の白人中産階級の淡々とした日常を描いた佳作でした。本作はその続編です。
前作もそうですが、東海岸の小都市に住む、もと中学校の数学教師のオリーヴ・キタリッジと、その周辺の人々のエピソードをゆるやかな連作短編小説にした構成がお見事。オリーヴ・キタリッジ一応メインの人物ですが、端役でしか登場しない作品もあったり、短編の主人公の会話にしか登場しなかったりと、濃淡があります。作品の真骨頂はオリーヴ・キタリッジを「怒りっぽく皮肉屋、しかし唖然とするほど正直で、たまに驚くほどあたたかい」複雑な性格の女性に設定したことです。作者の等身大のキャラクターかも知れません。よく書き込まれていると思います。このキャラクターを映像化するとフランシス・マクドーマンドがはまり役というのもうなずけます。
本作は74歳になってお互いが伴侶をなくしたもの同士で再婚し、86歳になってひとり身になり、老人介護施設に入って日常を送る、という年の流れの構成です。作者のエリザベス・ストラウトが1956年生まれで、当方1959年生まれの年代とほぼ同年代であり、作者なりの「老い」への準備かな、と思いました。老いの直接の達観ではなくて「みんな抱えるものがあって生きてるよ。そういうことだ」「老境にいたっても、わからないものはわからない―」という屈折した達観です。
日本語版の表紙は紙谷俊平氏によるエドワード・ホッパー風の東海岸の風景で、作中にも出てくる赤い光を放つハーフウェイ・ロック灯台が作品を象徴しています。孤塁ではあるしかし光を放つ、というのが当方の結論です。
作品の最後の方で「オレンジ色の髪の大統領」への言及がありますが、作者は歓迎してません。
いろいろ問題は抱えているにせよ、東海岸に住む白人中産階級の生活は落ち着いたものがありますが、先行きは日本も含めて不安があります。オリーブは老人施設で電動式のタイプライターを息子に用意させ、大人用のおむつをしながらも、自分史らしきものを毎日書いていきます。「自分がどんな人間だったのか、手がかりさえもない。正直なところ、何ひとつわからない」で終わってます。

