『一人称単数』(村上春樹著、2020年、文藝春秋)
村上春樹さんの新作短編集。基本的には長編小説家であるご自身でも短編は長編執筆の間のトレーニングの要素があるようで。執筆姿勢はバラバラと書かずに一気に書き上げるそうです。(2005年の『東京奇譚集』(新潮社)の5本の短編は1週間に1本のペース)。また一つのテーマに沿って連作短編を書かれることもあります。1995年の阪神淡路大震災を「ある種の圧倒的な暴力」の片鱗として描かれました。
本作『一人称単数』は比較的短い期間に書かれていますが、これと言ったテーマはなく、少し散漫な作品集です。強いて作品の共通点を挙げれば、古希を迎えた(のであろう)語り手が青年時代の記憶を回想する主題に長く交際していない少し風変わりな女性が絡む、「石のまくらに」「クリーム」「ウイズ・ザ・ビートルズ」。風変わりな女性との邂逅を描いた「謝肉祭」「一人称単数」が、無理やり括れるとことです。
「品川猿の告白」は『東京奇譚集』収録の傑作「品川猿」の後日譚。「ヤクルト・スワローズ詩集」と「チャーリー・パーカー・プレイズボサノヴァ」は架空の詩集、架空のレコード・アルバムをまず最初にでっち上げ、それにまつわる寓話。
強いて挙げれば架空のレコード評のレコードが実際に存在した幻に遭遇し、チャーリー・パーカーが夢に出てきて自分のためにボサノヴァを演奏してくれる「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」が平均点以上でしょうか。
もう少し発表時期をずらして「コロナ禍」に関しての連作短編を書かれたらもっと傑作になったかも知れません。
ちょっと残念な短編集でした。
<作品紹介>
6年ぶりに放たれる、8作からなる短篇小説集
「一人称単数」とは世界のひとかけらを切り取る「単眼」のことだ。しかしその切り口が増えていけばいくほど、「単眼」はきりなく絡み合った「複眼」となる。そしてそこでは、私はもう私でなくなり、僕はもう僕でなくなっていく。そして、そう、あなたはもうあなたでなくなっていく。そこで何が起こり、何が起こらなかったのか? 「一人称単数」の世界にようこそ。
収録作
「石のまくらに」「クリーム」「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」「『ヤクルト・スワローズ詩集』」「謝肉祭(Carnaval)」「品川猿の告白」(以上、「文學界」に随時発表)「一人称単数」(書き下ろし)
文藝春秋社のサイトより
