2020年7月24日金曜日

[積読立読斜読] 『コンビニ人間』(村田沙耶香著、文春文庫、2020年)



旧刊です。

書店の文庫コーナーで平積みで帯の「36か国・地域で翻訳決定 累計130万部突破」につられて購入。

作者の投影と思しき主人公はコンビニのバイト歴18年の36歳未婚女性。幼い頃から適応障害があり自分の生き場所がコンビニしかないおそらく処女の魅力のない女性です。古くからある反体制小説『蟹工船』のような闘う敵が判然とするのではなく、確実に成熟した資本主義社会の末端で搾取される労働者でありながら、自ら自分が生きる世界はコンビニの中でしかなく、かなり居心地がよい、と思える無自覚な主人公は、その存在自体が奇態ではあります。

小説の半ばでもう一人の社会不適格者の男性とかかわりを持ち奇妙な共同生活が始まりますが、自分の社会だと思っていたコンビニでも周辺からは奇異な存在と思われていたことがわかり退職してしまいます。(最終的には再度コンビニの世界に戻っていきますが)。

コンビニをディストピアとして捉え、そのディストピア自体の存在も意識できなくなっている資本主義末期の人間模様とすると、世界各国で翻訳されているのもうなずけます。

コンビニの店員さんはいずれAIに取って変わられるのでしょうが、商行為そのものから人間性が失われていく墓碑銘となる小説なのでしょう。

読後感は悲しいです。


<書籍データ>
初出「文學界」(2016年6月号)
単行本 2016年7月文芸春秋社
文春文庫 2018年9月第1刷
2020年5月30日第18刷


<雑誌『ニューヨーカー』2018年のベストブックスに選出>
2018年に英訳本“Convenience Store Woman” by Sayaka Murataが選出。記事によると日本での「閉塞感」よりは奇妙な滑稽譚としての読まれ方のようです。アメリカは自立した個人がまだ確立された社会なのでしょうか。


<著者プロフィール>
1979(昭和54)年千葉県生れ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003(平成15)年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年「コンビニ人間」で芥川賞受賞。著書に『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』などがある。

新潮社のサイトより


<作品紹介>
第155回芥川賞受賞作!

36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。
これまで彼氏なし。
オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、
変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、
清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、
毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、
完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、
私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。

ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は
「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。

現代の実存を問い、
正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163906188
文藝春秋社のサイトより