何しろ関係が充分でないと、
いい人同士でもお互いに悪く思うし、
それが充分だと
いい加減悪い人間でも憎めなくなる
「あの時帰してしまえば石はしまいまで、厭な女中で俺たちの頭に残るところだったし、先方(むこう)でも同様、厭な主人だと生涯思うところだった。両方とも今とその時と人間は別に変わりはしあいが、何しろ関係が充分でないと、いい人同士でもお互いに悪く思うし、それが充分だといい加減悪い人間でも憎めなくなる」
「本統にそうよ。石なんか、欠点だけ見れば随分ある方ですけれど、またいい方を見ると中々捨てられないところがありますわ」
p173
『小僧の神様 他十篇』(志賀直哉、岩波文庫)より「流行感冒」
