2022年8月27日土曜日

[積読立読斜読] 『天祐なり 高橋是清・百年前の日本国債』(幸田真音著、角川書店、2012年)


 縁あって参加している月の一度の読書会。カフェダスティ―アーツ読書会。


9月の課題図書は旧刊ですが幸田真音さんの高橋是清の生涯を材にとった『天祐なり』です。


オリジナルは2011年東京新聞他の新聞小説。2012年角川書店より単行本化。2015年角川文庫化。2014年新田次郎文学賞受賞。当方は中古の単行本で読了。


高橋是清に関しての小説を読むのは初めてですが(幸田真音さんの作品も)、『高橋是清自伝』(中公文庫版)を学生時代に読んだことがあり「小説より奇なり」の見本のような波瀾の人生については既知でありました。


自伝が小説よりも面白いこともあって、ほぼ編年体で是清の生涯を描いた小説の筋自体が面白くないわけがなく、幸田真音さんが「何を書くのか」に興味がありました。


銀行員・証券会社でのディーラーを経て経済小説家となっただけあって、一番力がはいっていたのは日露戦争の戦費調達のための外債募集の場面かと思います。外債調達の仕組みを専門家らしく詳細に調査されて、事業がいかに困難であったかが理解できます。


自分は昭和恐慌からの回復時に見せた「日本のケインズ」高橋財政の考え方を、是清がどこで学んだのか、軍拡からやがて二・二六事件で自らテロの対象になるまでの社会情勢の描きかたが不十分で、小説の主題としては散漫で平坦な印象となり残念でした。


前回の読書会課題書であった『超訳ケインズ一般理論』の版元、東洋経済新報社の石橋湛山は是清の若きブレーンだったそうですが、本作では登場せず。ケインズの論文を是清が読んでいたのかどうかも調査不明のようです。


タイトルの『天祐なり』は是清が外債調達に成功した際の言葉だそうです。


自分の興味は、正規教育をまったく受けていない是清の知識の背景や、「だるま宰相」に相応しい頂点から奈落への人生の経路で、かならず救済者が現れる人物的魅力、逆境に落ち込まない天性の楽天家、はどこから由来するのかでしたが、本作で合点が行きました。


<著者プロフィール>

1951年滋賀県生れ。米国系銀行や証券会社での債券ディーラーや外国債券セールスなどを経て、1995年『ザ・ヘッジ 回避』(文庫版は『小説ヘッジファンド』と改題)を上梓し、作家に転身。『偽造証券』『傷─邦銀崩壊―』『日本国債』『あきんど―絹屋半兵衛―』『コイン・トス』『日銀券』『周極星』『タックス・シェルター』『バイアウト』『Hello,CEO.』『ランウェイ』『財務省の階段』など、多くの作品がある。

新潮社のサイトより


<他の本からの引用>

『高橋是清 日本のケインズ―その生涯と思想』(リチャード・J・スメサースト著、東洋経済新報社、2010年)


P378

高橋是清の政治経済思想家としての13の原則


(1)政府の主要な責務は自国の経済成長を促進することである。

(2)経済発展の目的は単に国家の財政基盤を鏡花することだけでなく、国民の生活水準を向上させることでもある。

(3)国の富と国民所得を引き上げる最も良い方法が、企業が労働者の生産性を向上させることでもある。

(4)所得分配の相対的な均一性はどの国にとっても必要であり、このため政府は、累進所得税を用いて貧富の差を縮めるべきである。

(5)政府は国民の生活水準を向上させる政策を採用するだけでなく、国民が統治にあたってより大きなや役割を果たせるようにする(普通選挙、府県知事公選制、を提唱)

(6)政府は、とくに不況時において、歳入以上に歳出を増加させ、自国通貨を減価させることによって、財政金融政策を通じて経済成長を刺激することができる

(7)政府は、経済が過熱しているときには、財政収支の均衡あるいは財政黒字の計上や、自国通貨の切り上げによって、財政金融政策を通じて需要を縮小させ、インフレを抑えることができる。

(8)過剰な軍事支出は、国の経済の健全性だけでなく、国防そのものも危険にさらすことになる。

(9)外交政策においては、文民が主導権を握り、軍人はこれに追随するべきである。

(10)日本の外交ならびに金融政策は、英米両国中心の枠組みと協調をとりながら運営されるべきである。なぜなら、英米両国との戦争は無益であるばかりでなく、英米両国とその帝国圏は、日本にとって最も重要な海外市場・資本源泉・天然資源・技術を提供しているからである。

(11)日本と他国の競争は、帝国建設や戦争を通じてではなく、貿易を通じて行われるべきである。

(12)中国との関係において日本は、先行き日本にとって世界における貿易上の競争相手ではなく、むしろ貿易相手国となりうるという意識を持って、強力な統一された中国の建設に向けて努力すべきである。

(13)持続的な経済成長にとって必要不可欠なのは、中央集権的な意思決定ではなく、市場における情報である。


高橋は、ケインズ自身がそうであったように、ケインズ主義者であると同時にハイエク主義者でもあった。


本書の主な目的の一つは、非摘出子として生れ、幼少時に武士としては最下層の足軽の家に養子に出された高橋が、成熟してこうした一連の多面的な考え方を持つに至った背景を考察することであった。(中略)若いころの高橋が習得した唯一の実用的な技術は、英語能力であった。


P390

訳者より新しい高橋是清像の重要点3点


(1)人格形成過程

(2)経済・社会観と政策思想

(3)1930年代の軍国主義の台頭と高橋の関係