2022年6月21日火曜日

[積読立読斜読]  『父が娘に語る経済の話』(ヤニス・ヴァルファキス著、関美和訳、ダイヤモンド社、2019年)

6月27日(月曜日)にある読書会の課題図書です。


『父が娘に語る経済の話』

(ヤニス・ヴァルファキス著、関美和訳、ダイヤモンド社、2019年)



本書は再読。日本版発売後すぐに帯のブレイディみかこさんの推薦「近年、最も圧倒された本」に惹かれて購入。


副題「美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい」


[装幀について]

ブレイディみかこさんは英語版(ペンギンブックス)のフェミニンさに惹かれて購入されたそうですが、このハードカヴァー版の装丁は本当に美しい。日本語版の副題に「美しい」とありますが「父が娘に語る」美しさと、英語版ハードカヴァーの「美しさ」だろうと思います。



「君には、いまの怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも賢く、戦略的に怒り続けてほしい。そして機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」



「父が娘に語る」という形式ではインドの初代首相のネルーの著書を喚起させました(未読ではありますが)。


[翻訳者について]

日本語版の翻訳者は関美和さん。超ベストセラーとなった『ファクトフルネス』も彼女の手になります。最近の朝日新聞の記事「フロントランナー」で知ったのですが、

彼女はチロルチョコで有名な松尾製菓が生家。炭坑地帯の田川に育ち周囲の貧困との格差に悩み、輝かしいキャリアを重ねながらも自らの境遇は偶然という謙虚さで、現在はESG(環境: Environment・社会:Social・管理: Governance)重視型グローバル・ベンチャーキャピタル・ファンド「MPower Partners Fund(エムパワー・パートナーズ・ファンド)」を立ち上げて活躍されいます。




[日本語版副題について]

「深く、壮大で」というのは著者のキャリアから。ギリシャ出身で英語圏の大学で教育を受け、オーストラリア、英国で経済学の教授として教壇に。私生活は明らかではありませんが、パートナーとの間にオーストラリア在住の娘さんがおり、この本の執筆時は10代だったようです。本書内の引用はギリシャ神話から映画『マトリックス』まで。格差の説明に「なぜアボリジニが英国に侵略しなかったのか?」という逆説で説明する箇所、英国の産業革命、EUの設立、自らが財務大臣自体のEUからのギリシャへの圧力と、登場する背景が実に壮大で、単なる経済用語の説明ではなく、歴史的な背景も含めての説明があり、ストンと腑に落ちます。「深く、壮大で」あります。



[再び装幀について]

日本語版装丁は小口翔平さん(tobufune主催)。アマゾントップ100のうち10%が小口さんのデザインだそうです。日本語版は文字ばかりの装幀で迫力はありますが色気がありません。著者のマルクスからの影響はかなり大きいものがあるのは、行き過ぎた市場主義からの脱却に、生産財の民主化(共有化)を挙げていることでわかります。ペンギンのサイトを見ていたらマルクス・エンゲルスの『共産党宣言』(英語版)の序章をヴァルファキスさんが書いており、この英語版装丁へのオマージュに違いないようです。




[本書の内容について]

経済用語を使わないで、10代の娘に語りかける形態をとっていて、わかりやすい章と、消化不良の章がありました。第1章の「格差」、第7章「通貨」はわかりやすく、第3章「利益」が市場社会の発展の基という説は感心しました。


P160

交換価値、経験価値、は通常の「使用価値」のほうが理解しやすいか?


日本語版には索引がない。


東大大学院准教授の斎藤幸平さんの論調とかぶるところがある。

「人新世(ひとしんせい)」、マルクス。


2020年10月25日日曜日

[積読立読斜読] 『人新世の「資本論」』(斎藤幸平著、集英社新書、2020年)

https://28minami-owaki.blogspot.com/2020/10/blog-post_25.html


[むすび]

社会的な活動はできないが、選挙権を持っていて、より正しい選挙に参加するためには、

経済学の基礎知識が必要と再確認した次第です。





アマゾンの読者書評で抜き書きをしてくれている人がいて、全文引用します。




「経済学を教える中でさらに強く感じてきたことがある。それは『経済モデルが科学的になればなるほど、目の前にあるリアルな経済から離れていく』」


「誰もが経済についてしっかりと意見を言えることこそ、いい社会の必須条件であり、真の民主主義の前提条件だ」


「いま、私たちは日替わりのニュースについて意見を交わすのに忙しく、本当に見るべきものが見えなくなっている」


「私たちの人生を支配している資本主義という怪物とうまく共存することができなければ、結局は何もかも意味をなさなくなってしまう」


「農作物の生産によって、はじめて本物の経済の基本になる要素が生まれた。それが『余剰』だ」


「農作物の余剰が、人類を永遠に変えるような、偉大な制度を生み出したということ。それが、文字、債務、通貨、国家、官僚制、軍隊、宗教といったものだ。テクノロジーも、最初の生物化学兵器を使った戦争もまた、もとをたどると余剰から生まれている」


「こうした仮想通貨にも共通することがある。どちらも、使ってもらうには、あるものがたくさん必要になる。そのあるものとは『信用』だ」


「経済について語るとはつまり、余剰によって社会に生まれる、債務と通貨と信用と国家の複雑な関係について語ることだ」


「宗教が生まれたのも、もとはといえば余剰ができたからだ」


「『支配者だけが国を支配する権利を持っている』と、庶民に固く信じさせればいい。自分たちが生きている世界こそが最高なのだという考えを植えつければいい。すべてが運命によって決まっているのだと思わせればいい。庶民の暮らしは、天からの授かりものだと信じさせればいい。天からの授かりものに異を唱えたら、この世がとんでもない混乱に陥ってしまうと思わせればいい」


「支配者を正当化する思想がなければ、国家の権力は維持できなかった。支配者が死んでも国家が存続し続けるような、国家権力を支えるなんらかの制度下された思想が必要だった。そして、思想を制度化するような儀式を執り行ったのが、聖職者だ」


「余剰を蓄積するには、権力の集中が必要で、権力が集中するとさらに余剰が蓄積され、富が支配者に偏っていった。それが『寡頭制』だ」


「金持ちは、自分がカネを持つに値する人間だと思い込んでしまう」


「何も持たない人を見ると、同情してそんな状況に怒りを感じるけれど、自分たちの豊かさが、彼らから何かを奪った結果かもしれないとは思わない」


「金持ちを責めても仕方がない。人は誰でも、自分に都合のいいことを、当たり前で正しいと思ってしまうものだ」


「値段が高いほうがいいものだと思っている人は多い。しかも、支払ってもらえる金額が多ければ多いほど、人はそれを売りたくなるはずだと思い込んでいる人も多い。だが、そうではない」


「値段がつかないものや、売り物でないものは価値がないと思われ、逆に値段のつくものは人の欲しがるものだとされる。だがそれは勘違いだ」


「『皮肉屋とは、すべてのものの値段を知っているが、どんなものの価値も知らない人間』だとオスカー・ワイルドは書いた。現代社会はわれわれを皮肉屋にしてしまう。世の中すべてを交換価値でしか測れない経済学者こそ、まさに皮肉屋だ。彼らは経験の価値を軽んじ、あらゆるものは市場の基準で判断されると思っている」


「ほとんどのものが広い意味での家庭内で生産されていたことからできた言葉が、『オイコノミア』だ。家庭という意味の『オイコス』と、法律、ルール、制約という意味の『ノモイ』が一つになって、『オイコノミア』という言葉が生まれた。この『オイコノミア』こそ、『エコノミー』の語源だ。エコノミーとはもともと、『家庭を運営し、管理するための法則』というような意味だった」


「産業革命の最初の具体的な形が、工場だった。詩人のウィリアム・ブレイクが『暗い悪魔のような工場』と呼んだその場所で、行き場を失った農奴たちは、人類史上はじめて工場労働者として蒸気機関と隣り合わせて汗を流して働くようになった」


「賃金労働者は自由意思で働けるようになったものの、市場の慈悲に頼らなければならなくなった」


「利益の追及が人間を動かす大きな動機になったのは、借金に新たな役割ができたことと深いつながりがある」


「人助けの場合には、正しいことをしたという満足感が経験価値になる。人を助けると自分の心が温かくなる。(中略)しかし、ローン契約の場合、見返りに何か交換価値のあるものを余分に受け取れることが貸し手の行動の動機になる。それが利子の受け取りだ」


「封建制度のもとで貴族階級が支配的な地位を維持できたのは、政治と軍隊と法律と慣習のおかげだった」


「産業革命の原動力が石炭ではなく、借金だったことがわかっただろうか?こうして、ひと握りの人たちが富を蓄積し、それ以外の人たちは耐え難いほどの悲惨な生活おしいられるようになった」


「市場社会にとっての借金は、キリスト教にとっての地獄と同じだ。近寄りたくはないけれど、欠かせないものだ」


「信仰や教義を脇に置き、借金に利子を課すことを法的に禁止しなくなってはじめて、産業革命は花開いた」


「現代の経済は、生き物の生態系と同じで、循環しなければ崩壊してしまう」


「人間はこの地球から作物を収穫する能力があるのに、飢えた人たちにそれを食べさせるシステムをつくれていないと、スタインベックは嘆いた」


「ある時点で、社会全体が借金漬けになり、経済の成長がそれに追いつかず、利益を出しても返済しきれない状況が訪れる。ここでみんなが思い描いていた未来はやってこないことに社会が気づく。未来から引っ張って借りてきた莫大な価値が実現できないとわかったとき、経済は破綻する」


「利益と富を生み出すまさにその仕組みが、金融破綻を生み出す、ということ」


「大量倒産、大量失業。それが、銀行の傲慢さの後に残る轍である」


「重要なのは、貝殻に刻まれた数字や、口座残高の数字を、人々が信用できるかどうかだ」


「国家が銀行を救済し、経済が安定してしばらくすると、銀行家はまたアクセルを踏み、どこからともなくおカネを生み出すようになる」


「こんな苦境に陥ったときに私たち市民を救済してくれるのは誰だろう?国家しかない。返済できない債務は国家に帳消しにしてもらうしかない。国家が介入してくれてはじめて、債務の霧が晴れ、回復への道を歩むことができる」


「国家を民間企業の敵と批判する人たちは、国家が身の程をわきまえず収入以上に支出すると大惨事が起きるという。だが、そんなのはたわごとだ」


「国債は市場社会における力関係の表れであり、金持ちが国家運営の費用を負担してくれないことへの対応策なのだ」


「公的債務は良くも悪くも、市場社会という機会を動かしている『機械の中の幽霊』だということだ」


「銀行はただの増幅器でしかない。市場社会が不安定である根本原因は別にある。原因のもとを深く探っていくと、ふたつの特殊な『商品』の奇妙な性質に行き着く。そのふたつとは、労働力とマネーだ」


「被害者に対して被害者づらするなと言うことほど、相手を傷つけることはない」


「全員が協力しなければ目標を達成できないのであれば、成功には個々人の協力だけでなく、個々人がみんなも協力するだろうと信じていることが必要になる」


「市場社会で利益を出そうともがいている企業家は、ほかの多くの人たちがどう考えるかを憶測し、その憶測に動かされる」


「労働市場は労働力の交換価値だけで動くものではない。経済の先行きに対する楽観と悲観に左右されるのだ」


「不景気の最中に賃金を一律に引き下げても、雇用は増えないどころか逆効果になりかねない」


「経済が社会の『エンジン』で、借金が『燃料』だとしたら、労働力はエンジンに点火するための『火花』で、おカネはエンジンがなめらかに動かし続けるための『潤滑油』だ」


「デジタル化と人工知能による機械化と自動化が社会を根本から変えている」


「変革の目標が人間と機械を調和させることではなく、人間を機械に置き換えることになってしまっているのだ」


「機械は休むことなく働いて、驚くべき製品を大量につくりだしているが、われわれの生活は楽になるどころかますますストレスの大きいものになっている」


「ラッダイトは歴史の中で最も誤解されている集団だ。彼らは機会を破壊したが抗議の対象は機会ではない。ひと握りの人たちだけが機会を所有していることに抗議したのだ。彼らは、テクノロジーではなく社会の仕組みに反旗を翻した」


「市場社会は技術革新を利用して人間をロボットに置き換えるだけでなく、人間がロボットよりも安ければ、人間を機械代わりにしてしまう」


「経営者の夢は、どの企業よりも先に労働者を完全にロボットに置き換えて、利益と力を独占し、ライバル企業の労働者の自分たちの製品を売りつけることだ」


「これまでとは違う『大転換』が必要なのだー機械を賢く使って、機械の労働がすべての人に恩恵をもたらすような大転換が」


「われわれ人間は、テクノロジーの可能性を余すところなく利用する一方で、人生や人間らしさを破壊せず、ひと握りの人たちの奴隷になることもない社会を実現すべきだ」


「通貨の購買力は、その生産コストとは何の関係もなく、相対的な希少性または潤沢さによって決まるということだ」


「ものに対して貨幣の量が相対的に減ると、すべての物価が下がる。逆にシステム内の貨幣総量が増えると、その反対のことが起きる。これが『インフレ』だ。


「経済は自然と違って、われわれがどう思うかに影響され、揉まれ、形づくられる」


「債務と税金ほど政治に左右されるものはない」


「通貨が国家からも政治的プロセスからも切り離せて、それが『人による』政府と政策につながるという考えは、危険な幻想だ」


「通貨が政治と切り離せないことを認めたら、われわれにできることはひとつしかない。通貨を民主化することだ。ひとり一票の重みを通して、通貨を管理する力を人々の手に与えるしかない。それがわれわれの知っているただひとつの防御策だ」


「いま、もし人間と地球を救う望みが少しでもあるとすれば、市場社会では認められない経験価値をもう一度尊重できるような社会にするしかない」


「すべての人間がロボットを部分所有することで、テクノロジーを民主化すればいい」


「民主主義は不完全で腐敗しやすいが、それでも、人類全体が愚かなウィルスのように行動しないためのただひとつの方策であることには変わりない」


「輝く物質が本物の金かどうかは、実験で証明できる。でも何が本当の幸せかは証明できない」


「自分の望みを一度に全部は叶えてくれない世界と衝突することで人格ができ、自分の中で葛藤を重ねることで『あれが欲しい。でもあれを欲しがるのは正しいことなのか?』と考える力が生まれる。われわれは制約を嫌うけれど、制約は自分の動機を自問させてくれ、それによってわれわれを解放してくれる。つまるところ、満足と不満足の両方がなければ、本物の幸福を得ることはできない。満足によって奴隷になるよりも、われわれは不満になる自由が必要なのだ」


「いまの経済は、人間の欲する目標を手に入れるのに適していないどころか、そもそも手の届かない目標を設定したシステムなのだ」


「マスコミは、大勢の人の利益や地球の利益を犠牲にするような政治判断に大衆の合意を取りつける手段になってしまっている」


「新しい現代の宗教こそ経済学だ」


「経済を学者にまかせるのは、中世の人が命運を神学者や教会や異端審問官にまかせていたのとおなじだ。つまり、最悪のやり方なのだ」