[積読立読斜読] 『久保田万太郎俳句集』(岩波文庫、2021年)(65)
625からの句は前書き多し。
「しぐれかな」の下五文字が同じ三句は「一人の友のいへる。」「また一人の友のいへる。」「おのれのいへる。」と続く。
「忍(のび)」の句は「銀座の晝を行く。」、「みこしまつまのどぜう汁」は浅草のドジョウ汁店「駒形」本店前にある句碑。
流寓抄 その十
625 身の幸のけふゆくりなきしぐれかな
626 年月(としつき)のつもりにまかすしぐれかな
627 鎌倉の果に住みつくしぐれかな
628 まゆ玉をうつせる晝の鏡かな
629 輪かざりやすでに三日の隙間風
630 忍(のび)、空巣、すり、掻ッぱらひ、花曇
631 つけてやりしすずふりならす子猫かな
632 人には逢つてみるものゝ浴衣かな
633 薫風や硯も墨もかくは缺け
634 みこしまつまのどぜう汁すゝりけり
ゆくり‐な・し
[形ク]《「なし」は意味を強める接尾語》
1 予想もしない。不意である。思いがけない。
「一年振の・き邂逅(めぐりあい)に」〈魯庵・社会百面相〉
2 軽はずみである。不注意である。
「あたら思ひやり深うものし給ふ人の、?・くかうやうなる事」〈源・賢木〉
ゆくりなき
【文語】ク活用の形容詞「ゆくりなし」の連体形。
デジタル大辞泉「忍び」の解説
しのび【忍び】
1 隠れたりして、人目を避けること。人に知られないように、ひそかに物事をすること。→お忍び
2 がまんすること。こらえること。
3 「忍び歩き」に同じ。
4 「忍びの術」の略。
5 「忍びの者」の略。
6 こそどろ。窃盗。
*駒形どぜう 浅草本店
小説 家で落語や歌舞伎分野を主とする評論家の安藤鶴夫、愛称・アンツル氏の句碑建立の文は以下のとおりです。
久保田万太郎先生は市井の人を愛し とくに またふるさとをおなじくする浅草ッ子を愛し た ここに駒形どぜう越後谷 五代 助七 その生前の厚誼をしのんで 先生をしたう情はまことに涙ぐましいものがあるが 昭和四十一年初夏 この句にゆかりの三社祭の吉日に当た って 駒形どぜうの店の前に いま先生の句碑を立てる 旧称田原町三丁目なる 先生の生家にもっともちかくにこの句碑を立てられたことは さだめし先生もよろこばれていることと思
われる ここにつつしんでこれをしるす者は おなじく浅草ッ子のひとり 昭和四十一年五月 十七日 安藤鶴夫 とあります。

