2023年5月1日月曜日

[積読立読斜読] 『また会う日まで』(池澤夏樹著、朝日新聞出版、2023年)

 


主人公は父方の祖母の兄(大伯父)にあたる秋吉利雄という実在の人物。作者が秋吉の三男が残した資料を譲り受け、秋吉の持っていた3つの顔、天測や海図製作などを担当する「水路部」に属する海軍軍人で航海術に業績を残した天文学者、敬虔けいけんなキリスト教徒、に惹かれたのが執筆の動機だそうです。題名は賛美歌から。


荒野をゆくときも

あらし吹くときも

ゆくてをしめして

たえずみちびきませ

また会う日まで

また会う日まで

神の守り

汝が身を離れざれ


狂信的な軍国主義者が多数をしめた第二次世界大戦末期の日本の軍部の中にあっては、さぞかし息苦しい生活でり、自己の認識においても悩み多き人生でははかったかと想像されます。単行本で700頁を超える大作ではありますが、海軍将校としての安全な立場からの歴史史観であり、優等生の模範解答のような読後感です。史伝ではありますが小説なので、例えば主人公の同期性として本土決戦を主導する陸軍将校を登場させれば物語に奥行きがでたのではないかと思います。


同様なことが「海軍を描いた作家」のうち、阿川弘之、吉村昭、にも言える事でしょう。




秋吉は「日本独自の天測歴を完成させた」として太平洋の海底にある山の一つに名前を残しています。



保阪正康さんによる書評。