どの男もすっかり土地のものらしいようすを漂わせているにもかかわらず、心では短期滞在者であり、華南のどこそこの村の生まれだと主張し、この植民地に属していることを否定する。
実際は一生ここで働き、ときには子供もここで生まれ、さらには彼自身ここの生まれである場合すらあるにもかかわらず、あくまで一時の通行者でという身分にこだわるのだ。
『慕情』(ハン・スーイン著、深町眞理子訳、角川文庫)より
1950年代にハン・スーインが描いたこういう「香港の中国人(ホンコン・チャイニーズ)」像は、香港生まれの新しい世代が5割をこえた今日は、すでにいささか古いタイプになった。
若者たちのなかには、この社会にしっかりとアイデンティティーの根を下ろした、自覚的な「香港人」も少なくはないが、しかしこれから先も彼らは、自分のことをたぶん中国人と呼びつづけるにちがいない。
名著『香港 旅の雑学ノート』(山口文憲著、新潮文庫、1985年)より孫引き。
オリジナルは1979年ダイヤモンド社。
