香港に旅行しました。飛行機が上海乗継だったので横光利一の『上海』を読んでました。
事実、彼は、日本におれば、日本の食物をそれだけ減らすにちがいなかった。
だが、彼が上海にいる以上、彼の肉体の占めている空間は、
絶えず日本の領土となって流れているのであった。
どこの国でも同じように、この支那の植民地へ集まっている者は、本国に帰れば、全く生活の方法がなくなってしまっていた。それ故ここでは、本国から生活を奪われた各国人の集団が、寄り合いつつ、全くここに落ち込んだが最後、性格を失った奇怪な人物の群れとなって、世界で類例のない独立国を造っていた。
しかも、それぞれの人種は死に接した孤独に浸りながら、余りある土地を吸い合う本国の吸盤となって生活しなければならぬのである。このためにここでは、一人の肉体はいかに無為無職のものと雖も、ただ漠然といることでさえ、その肉体が空間を占めている以上、ロシア人を除いては愛国心の現れとなって活動しているのと同様であった。
参木はそれを思うと笑うのだ。事実、彼は、日本におれば、日本の食物をそれだけ減らすにちがいなかった。だが、彼が上海にいる以上、彼の肉体の占めている空間は、絶えず日本の領土となって流れているのであった。
岩波文庫『上海』(横光利一著)より
1925年の5.30事件はなぜ起こったか.日系紡績工場のストライキはこの多言語都市のあらゆる階層を揺さぶる.在留邦人と中国人女性闘士との恋,金融界から風俗店まで,雪崩打つ排日排英の足音.思惑渦巻く露地に亡命ロシア人や湯女の嘆きを軋ませ,新感覚派的手法で国際都市を多声的に描いた問題作.【改版】解説=小田切秀雄・唐亜明
http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/qsearch
