作家の高橋源一郎がオリジナルの文庫再刊の解説を書き、また2013年の11月28日付け朝日新聞論壇時評でもその先見性をべた褒めしたせいで、本書『33年後のなんとなく、クリスタル』(河出書房新社、2014年)も概ね好評を持って迎えられているようです。オリジナルを学生時代に読んだのでこちらも読んでみました。
小説は結構手が込んでいて、1981年版の『なんとなくクリスタル』で主人公だった女子大生たちの33年後を、作者の分身であるヤスオ氏がコメントを大幅に入れつつ物語るといった構成で、時折33年前の描写も差し込んでいるので、時系列でも現代日本史を描いている労作です。オリジナルと同じように膨大な注がついていて、注それ自体も論評になっています。(多くは作者の田中康夫が各媒体に発表してきた論評の焼き直しではありますが)。
高橋源一郎が高く評価した部分はオリジナルの巻末にひっそりと引用されていた政府の人口問題審議会の報告、昭和55年版の厚生白書で、統計的に日本がすぐに超高齢化社会に突入するという警告でした。33年後の状況は予想を遥かに超えて深刻な状況となっています。
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そうして当時は、全国津々浦々で真っ当に働き・学び・暮らす老いも若きも、それぞれに夢や希望を抱いていたのだ。パステルカラーに彩られた”一億中流社会ニッポン”の一員として…。でも、なんだかずいぶんと”昔みだい”に思える。
当方も1981年版を学生時代に読みましたが、田中康夫氏の描く華やかな世界の女性とは残念ながら縁がありませんでしたが、ただし少なからず物欲が強く、モノが多ければ幸せと思っておりました。浅い読み方で高橋源一郎の指摘箇所も読み飛ばしたようです。
多少なりとも当方も「33年後のなんとなく、クリスタル」族でありますが、物欲はほとんどなくなり、孫が健康に育ってくれればよい、ぐらいの希望しかありません。
望みもあまりない分、本書程には世間を悲観してはいませんが。
本書は小説というより、長野県知事以降の政治家・田中康夫の政治論の集大成として読んでも面白いです。論評が正鵠を得ているだけに、田中康夫が今少し謙虚であれば政治家として長続きしたのにと残念です。政治評論家向きなのかも知れません。
追記:当方だけで誰も言ってませんが、1981年当時「世界三大○○クリ文学」というのを考えてました。『モンテクリスト伯』が「モンクリ」、『ジャン・クリストフ』が「ジャンクリ」、そして『なんとなくクリスタル』が「ナンクリ」というんですけど。
