時間待ちで読めそうな文庫本を。
半七捕物帳が宮部みゆきさん選で新潮文庫から出ていたので手に取りました。過去に何回も半七は読んでますが、毎回筋を忘れるので新鮮な気持ちで読書できます。
<私と半七捕物帳との出会い>
英文学者の渡辺昇一さんがベストセラーとなった講談社現代新書の『知的生活の方法』(1976年)で推薦されていて学者が通俗小説を自分の古典と憚らな態度に知的な正直さを感じました。
自分が読んだのは1977年の旺文社文庫版(全6冊)です。詳細な解説を養子の岡本経一さん(出版社・青蛙房経営)が書かれておりまして、最終巻の68編(69編という説もあり)の一覧表が作品理解に役立ちます。
ミステリー作家の宮部みゆきさんによる文庫版の選集は二度目です。2009年に北村薫さんとの協働で23編を二冊に分け(『読んで、「半七」!」』、『もっと、「半七」!』出版されました。私はこの2冊も読んでます。
今回の新潮文庫nex版は特に若い読者向けに編まれたそうです。あまり駄作のない半七だそうですので傑作選が悪かろうはずはなく、スラスラ読了。
さすがに初出が1917年であり、舞台も江戸時代なので、時代物に興味がない読者はつらいかも知れません。この新潮文庫版も作品の地名、劇名などの解説が一切なく、若い人は読めないと思いますね。残念。
私も「津の国屋」編だけで辞書を引いたのが下記の項目あります。
さなきだに:そうでなくてさえ。
門並:家ごと、毎戸、家の並び
老少不定:老人と子供、不確かなこと、定めなき事
P205
そりゃあ老少不定で寿命ずくなら仕方もねえわけだが、
売僧:まいす、悪徳の僧
出入り場:愛顧を受けて足しげく出入りする家。得意先。
草市:旧暦7月12日夜から13日朝にかけて、盂蘭盆に備える草花や種々の品を売る市。盆市。
菩提寺:一家が代々帰依して葬式・追善供養などを営む寺。檀那寺。
棚経(たなぎょう):盂蘭盆会に精霊棚の前で僧が経を読むこと。
迎え火:盂蘭盆の初日の夕方に、祖先の精霊を迎えるために焚く火。門前で麻幹(おがら)を焚くのが普通。
足駄(あしだ):歯・鼻緒のある板製履物の総称。
出代り時:女中・下僕などが、雇用期間を終えて交替すること。また、その交替期日。
桂庵:縁談・奉公などの紹介者。口入れ屋。
目見得(めみえ):奉公人が、その家にまず試みに使われること。
P227
三日の目見栄もとどころりなく済んで、
覿面(てきめん):覿(てき)はまみえるの意。
内福:うわべにはさほどに見えなくて、内実は裕福なこと。
獏連:世間ずれして悪賢い様。女性につかう。
矢場女:矢場に雇われて客の相手をする女(売春婦)。
将来仕事もしなくなって暇になったら全編をまた読んでみたいですね。半七捕物帳の事典も刊行され、江戸時代の古い地図と合わせたガイドブックも刊行されているので、それらを参照にしながら、じっくりと読んでみたい作品ではあります。
(表紙のイラストは10頭身の岡っ引きです?)
<内容紹介>
彼は江戸時代における隠れたシャアロック・ホームズであった――。雪達磨の中から発見された死体。通行人を無差別に殺し続ける“槍突き”。江戸の難事件に立ち向かうは、神田三河町に居を構える岡っ引・半七。殺人、怪異、怪談。彼の推理はすべての不可思議に真実の光を当てる。今なお古びない捕物帳の嚆矢にして、和製探偵小説の幕開け。全六十九編の中から宮部みゆきが選んだ傑作集。
<収録作品>(宮部みゆきさんによる一行案内)
雪達磨
雪だるまの中に遺体が!冒頭に半七の縄張りについての説明あり。
お文の魂
事件ものの余韻に実話怪談テイストが漂う。シリーズの振り出しとしても必須。
山祝いの夜
箱根という著名な旅籠町が舞台の旅情サスペンス。
筆屋の娘
若い娘の淡い色香が漂う。現代でもありそうで怖い事件。
勘平の死
素人芝居の楽しさと凄惨な事件の取り合わせ。
槍突き
無差別殺人の心理。
少年少女の死
水出しという子供の玩具が鍵となる事件。(二幕もの)。
津の国屋
怪異譚と思わせて実はリアルな事件もの。半七ワールドの粋がここに。
<著者プロフィール>
岡本綺堂 オカモト・キドウ
(1872-1939)東京生れ。元御家人の英国公使館書記を父として生まれる。新聞記者として働きながら戯曲の執筆を始め、1911(明治44)年、『修禅寺物語』が出世作となる。他に『鳥辺山心中』『番町皿屋敷』など、生涯に196篇の戯曲を残す。コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」シリーズに着想を得て執筆を開始した「半七捕物帳」は、後の「捕物帳」の嚆矢となり、多くの作家に影響を与えた。
<選者プロフィール>
宮部みゆき ミヤベ・ミユキ
1960(昭和35)年、東京生れ。1987年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。1989(平成元)年『魔術はささやく』で日本推理サスペンス大賞を受賞。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞を受賞。1993年『火車』で山本周五郎賞を受賞。1997年『蒲生邸事件』で日本SF大賞を受賞。1999年には『理由』で直木賞を受賞。2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、2002年には司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)を受賞。2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞した。他の作品に『ソロモンの偽証』『英雄の書』『悲嘆の門』『小暮写眞館』『荒神』『この世の春』などがある。
新潮文庫のサイトより