2020年6月23日火曜日

[積読立読斜読]『未来への大分岐』(斎藤幸平・編、集英社新書、2019年)第1部 マイケル・ハート(政治哲学者・デューク大学教授)

1987年生まれの気鋭の哲学者、斎藤幸平さんの対談集。本日はマイケル・ハート氏との対談を読みました。以下は当方の読書ノートです。(他の人が読んでもわかりません。スミマセン。)

資本主義経済の制度疲労によって経済成長が鈍化している現代社会で、資本主義に代わるオルタナディブを模索している3人との対話。

それぞれ立ち位置は違いますが、第1部のマイケル・ハート氏は<コモン>という概念を中心において新たな民主主義の確立を提唱しています。




第1部 マイケル・ハート(政治哲学者・デューク大学教授)

グローバル資本主義が変容させる政治・経済を描いた『<帝国>』三部作(アントニオ・ネグリとの共著)は、「21世紀の『共産党宣言』」と呼ばれた衝撃作。

ウォール街占拠運動をはじめとする社会運動の理論的支柱となっている。

第1章 資本主義の危機と処方箋

危機の時代でも「Think Big!」(大きなスケールで思考し行動する)を呼び掛ける思想家

政治・経済・社会の閉塞状況の原因:資本主義そのもの

資本主義に代わるオルタナディブを作る動きがある

世界経済の長期停滞と、先進国の中間層が没落、経済格差が広がっている

トマス・ピケティなど主流の経済学者の提唱する社会民主主義的な処方箋で危機が乗り越えられるのか疑問

MHは否定的

1970年代に登場した新自由主義

新自由主義の特徴
・財政緊縮
・民営化の推進
・社会保障制度の解体
・労働組合の弱体化


なぜ世界で採用されたか
1970年代に資本蓄積の危機があったため
新自由主義は一時的な回復に寄与したが抜本的な改革にはならなかった

戦後の欧米の福祉国家は「過激化する労働運動」(=資本の危機)の懐柔策

グローバル化によって海外の廉価な労働力を使う:国内労働者との妥協は不要

非正規労働者の増加:労働運動の弱体化

冷戦中、資本主義陣営は自由が重要、平等は二の次
社会主義陣営、平等が重要、自由はその次

ポストキャピタリズムは自由・平等・連帯、を実現する
その可能性はマルクスにヒントがある(資本主義の黎明期にその矛盾を指摘した)

新自由主義は社会に直接貢献する仕事の多くを非正規化(バス運転手、工場労働者)
投資銀行や証券ディーラーにその給与がまわった(なくてもいい仕事)

人々の要求
自分たちの才能や能力を発揮する手段を、より民主的・自律的な方法で管理する
(国家による介入・保護ではない)
生産手段の自主管理は、資本主義の根本原理とは相容れない


第2章 政治主義の罠

民主主義の危機:選挙で政治選択ができるという信念が、有権者たちから消失している

民主主義の「機能不全」という危機→ポリュリストが支持を拡大している


議会民主主義の機能不全+過去へのノスタルジーに依拠した政治主導体制+国難レベルの危機
=愛国主義的・強権的な独裁体制に変貌

その危険性を深刻なものとして認識する必要がある

ウォール街のオキュパイ運動では意思決定に水平的・フラットな方法を構築しようとした
継続性のある制度の構築をめざせば、ヒエラルキーと支配が伴うジレンマがある

数多性(マルチプリシティ)があっても共に行動することはできる=非権威主義的なリーダーが人々の民主的な運動のなかで決まった「戦略」を実現していくために「戦術」を練る

アメリカでの運動は世界的な潮流(ムバラク政権打倒のエジプト)

※社会運動が新しいタイプの政治家の生みの親

日本では民主主義の理解が選挙政治という限定的な意味にとどまっている
社会運動による社会改革という経験が少ない
労働組合も企業別の組合(企業によって分断されている)

日本の社会運動が選挙政治と政策立案になっている=「政治主義」「制度主義」

※自己統治が民主主義であると捉えると、民主主義が必要とするのは狭い意味での政治制度でなく、社会の変革

社会・経済に根付かない活動は空回りする

<コモン>という概念が組織化を社会・経済に根付かせる


第3章 <コモン>から始まる、新たな民主主義

<コモン>:民主的に共有されて管理される社会的な富

例:ベルリンの電力システム

<コモン>を民主的に管理するという経験こそが、本当の意味での民主的な政治がどのようなものなのか、具体的な輪郭を与えてくれる

地球の未来を決めるのは国家ではなく私たち、そのための民主的で新らしい仕組みが必要
(コモンからエコロジーへ)

ナオミ・クラインのエコロジーの分析はマルクスと一致する

<コモン>を獲得することが、略奪的な経済を超えて、人間と自然の関係を修復することにつながる


第4章 情報テクノロジーは敵か、味方か

20世紀後半から「発展」の意味が、商品の生産を基準にした「経済成長」のことだとみなされるようになった

地球のためになるオルタナディブな「発展」を考える必要がある

『資本論』刊行後150年間は、工業生産が他の生産形態の支配的な形態であった

第三次産業革命によって、工業が経済・社会に対してヘゲモニーをふるっていた時代が終わる(これ以上波及しない)

「非物質的生産」が擡頭

労働者階級は「マルチチュード」という概念に置き換わる

「構想」と「実行」の分離を乗り越え、固定資本の管理権を手に入れる闘い=非物質的労働の時代における生産手段を巡る戦い


第5章 貨幣の力とベーシック・インカム

BIは現代の社会が抱える病理をある程度解決する

「ユニバーサル・ベーシック・サービス」があればBIは必要ない
(脱商品化、貨幣は必要ない)

社会運動に制度化が必よな用に、<コモン>にも制度化が必要
資本主義下の貨幣ではなく、広がりと持続性を持つ社会的テクノロジーとしての貨幣

社会的・経済的領域における水平的な<コモン>の管理の経験を制度化していくことで、民主主義の領域を拡大し、より自由で、平等な社会への可能性が切り拓かれる