画像はpintarestから
5月26日付け朝日新聞の小熊英二さんの論壇時評を読んで、うかつにも初めて知ったのですが、安倍政権が3世代同居住宅新築・改築へ補助金を出す制度を始めたそうです。
この記事にはありませんが申請が結構簡単で実際に3世代が同居していることは調べられないそうです。政策の目的は少子化対策であり、理由は子育て・孫育てを世代間で助け合える環境であれば、子供を産み育てやすいといいうものです。
かくいう私の家族は、私たち夫婦・私の実母・娘夫婦・孫の4世代近居(広島県の定義によると同一小学校通学圏を「近居」と言うらしいです)です。決して補助金狙いではなく、長く続く平和な世の中、家族の健康、生計を立てることができる就学・就労の機会に恵まれたこと。また4世代が近居できる住環境を残してくれた先祖。たくさんの人のおかげで今日があります。
複数世代が住める住宅を新築できる人は相当生活に余裕がある人たちで、別に補助金がなくても3世代同居は可能なのでしょう。真に子供がほしくても産めない層への補助金にはなっておらず、少子化対策としては的外れであると思います。
5月20日に行われた中国地方の県知事会でも同様の政策を採用するアピールが採決されたそうです。小熊英二さんの論評は政策立案者が困っていない立場にあり、しかもそれが長く続いているために、国民の多数を占めつつある真に救済が必要な人の気持ちがわからず、政策に反映されないという意見です。
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連載:小熊英二の論壇時評一覧
(論壇時評)二つの国民 所属なき人、見えているか 歴史社会学者・小熊英二
2016年5月26日 朝日新聞デジタル
19世紀英国の首相ディズレーリは、英国は「二つの国民」に分断されていると形容した。私見では、現代日本も「二つの国民」に分断されている。
そのうち「第一の国民」は、企業・官庁・労組・町内会・婦人会・業界団体などの「正社員」「正会員」とその家族である。「第二の国民」は、それらの組織に所属していない「ログイン前の続き非正規」の人々だ。
この分断の顕在化は比較的最近のことである。私が国立国会図書館のデータベース検索で調べたところ、雇用関連の雑誌記事の題名に「非正規」という言葉が使われたのは1987年が初出だ。そしてそれは2000年代に急増する。
それ以前も「パート」「日雇い」「出稼ぎ」などはいた。だが、それらを総称する言葉はなかった。「パート」や「出稼ぎ」でも「正社員の妻」や「自治会員」である人も多かった。単に臨時雇用というだけでない「どこにも所属していない人々」が増えたとき、「非正規」という総称が登場したともいえる。
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彼らは所得が低いのみならず、「所属する組織」を名乗ることができない。そうした人間にこの社会は冷たい。関係を作るのに苦労し、結婚も容易でない。
「週刊東洋経済」の特集「生涯未婚」は、「結婚相談所なんて正社員のためのビジネスだとわかりました」という34歳男性の言葉を紹介している〈1〉。女性の7割は年収400万円以上の男性を結婚相手に期待するが、未婚男性の7割は年収400万円未満である。その結果、男女とも結婚できない。50歳時点で一度も結婚していない「生涯未婚者」は、2035年には男性で3人に1人、女性で5人に1人になると予測されている。
これは所得の問題だけではない。昔なら低所得でも、所属する企業・親族・地域の紹介で「縁」が持てた。所属のない人々はそうした「縁」がないのだ。
こうした「第二の国民」は、どの程度まで増えているのか。統計上の「非正規雇用」は4割だが、藤田孝典は「一般的に想像されるような正社員は実は急減している」という〈2〉。労組もなく、労働条件も悪く、「10年後、20年後の将来を描けない周辺的正社員」が増えている。そして「彼らの増加と未婚率の上昇はほとんど正比例」というのだ。
低収入で家族もいない人が増加すれば、人口減少だけでなく、社会全体の不安定化に直結する。1月に犠牲者15人を出したスキーバス事故の背景に、高齢単身運転手の劣悪な労働・生活状況があったことはテレビでも報道された〈3〉。
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それにもかかわらず、「第二の国民」が抱える困難に対して、報道も政策も十分ではない。その理由は、政界もマスメディアも「第一の国民」に独占され、その内部で自己回転しているからだ。
日本社会の「正社員」である「第一の国民」は、労組・町内会・業界団体などの回路で政治とつながっていた。彼らは所属する組織を通して政党に声を届け、彼らを保護する政策を実現できた。
もちろん「第一の国民」の内部にも対立はあった。都市と地方、保守と革新の対立などだ。55年体制時代の政党や組織は、そうした対立を代弁してきた。今も既存の政党は、組織の意向を反映して、そうした伝統的対立を演じている。
報道もまた、そうした組織の動向を重視する。新聞紙面を見るがいい。記事の大半は政党、官庁、自治体、企業、経済団体、労組といった「組織」の動向だ。一方で「どこにも所属していない人々」の姿は、犯罪や風俗の記事、コラム、官庁の統計数字などにしか現れない。
政党も報道機関も、「組織人」と「著名人」しか相手にしない。というより、組織のない人々を、どう相手にしたらよいかわからない。私はある記者から、こんな話を聞いたことがある。
福島原発事故後、万余の人が官邸前を埋めた。米国大統領府前で万余の人が抗議すれば、大ニュースになるはずだ。しかし日本では報道が遅く、扱いも小さかった。その理由について、その大手メディア記者はこう述べた。
「あの抗議は労組や政党と関係のない所から出てきた。組織がないのに万単位が集まるなんて、何が起きているのか理解できなかった。私たちは組織を取材する訓練は受けてきたが、組織のない人々をどう取材したらいいかわからない」
30年前ならこの姿勢でもやっていけただろう。だが所属組織のない人々が増えるにつれ、「支持政党なし」も増え、新聞の部数は減る一方だ。「第二の国民」にとって、新聞が重視する政党や組織の対立など「宮廷内左派」と「宮廷内右派」の争いにしか見えないからだ。これは媒体が紙かネットかの問題ではない。
政策もまた、認識が古いために、的外れになっている。堀内京子は、官邸主導により、少子化対策として「3世代同居」優遇税制が導入された経緯を検証している〈4〉。だが平山洋介によれば、3世代世帯は持ち家率が高く、住宅が広く、収入が多い〈5〉。3世代世帯の出生率が高いとしても、恵まれた層の出生率が高いというだけだ。それを優遇しても、少子化対策として効果はなく、恵まれた層をさらに優遇するだけだという。
放置された「第二の国民」の声は、どのように政治につながるのか。誰が彼らを代弁するのか。この問題は、日本社会の未来を左右し、政党やメディアの存亡を左右する。これは、この文章を読んでいるあなたにも無縁の話ではない。
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〈1〉特集「生涯未婚」(週刊東洋経済5月14日号)
〈2〉藤田孝典・白河桃子 対談「婚活ブームを総括しよう」(同上)
〈3〉番組・NHKスペシャル「そしてバスは暴走した」(4月30日放送)
〈4〉堀内京子「現実無視のイデオロギーが税制歪(ゆが)める 首相指示により『3世代同居』前面へ」(Journalism5月号)
〈5〉平山洋介「『三世代同居促進』の住宅政策をどう読むか」(世界4月号)
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おぐま・えいじ 1962年生まれ。慶応大学教授。『単一民族神話の起源』でサントリー学芸賞、『〈民主〉と〈愛国〉』で大佛次郎論壇賞・毎日出版文化賞、『社会を変えるには』で新書大賞、『生きて帰ってきた男』で小林秀雄賞を受賞。
