2026年8月30日日曜日

[その他] ハチドリ舎 調べ学習 資料 緊急事態

 


緊急事態  

きんきゅうじたい Notstand[ドイツ]


一般的には,戦争,内乱,天災地変等の事態が,通常の統治体制ではそれに対処できないと考えられる場合をさし,非常事態ともいう。このような事態に対処するための特別の権力を,国家緊急権と呼ぶ。明治憲法は緊急事態に対処するために,〈緊急勅令〉(8条),〈戒厳令〉(14条),〈非常大権〉(31条),〈財政上の緊急処分〉(70条)の措置を定めていた。それに対して日本国憲法は,緊急事態の典型である戦争について,その放棄を定めるとともに(9条),緊急事態を予定した条項をおかなかった(ただし自衛隊法76条は,外部からの武力攻撃に対する防衛出動に関して規定している)。わずかに参議院の緊急集会の規定(憲法54条2,3項)が問題になるだけである。しかし,憲法外では現行法律上,緊急事態について定めた条項があり,とくにそれをさして緊急事態ということも多い。そこで予定されている通常の統治体制に対する修正は,ある程度限られており,その場合の国家緊急権は比較的弱い。警察法では,大規模な災害または騒乱,その他通常の警察の体制では治安の維持が確保できない事態を緊急事態と呼び,その場合,内閣総理大臣は,国家公安委員会の勧告にもとづいて,全国または一部の区域について〈緊急事態の布告〉を発することができるとしている(71条)。布告が発せられると,通常の警察の指揮系統が変更をうけ,内閣総理大臣が一時的に警察を統制し,緊急事態を収拾するために必要な限度で,警察庁長官を直接に指揮監督する(72条)。内閣総理大臣は,布告を発した日から20日以内に,それを国会に付議して,その承認を求めなければならない(74条)。また自衛隊法によれば,内閣総理大臣は,間接侵略その他の緊急事態に際して,一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合には,〈治安出動〉として自衛隊の全部または一部の出動を命ずることができる(78条1項)。この場合にも,国会の承認手続が要求されている(同条2項)。さらに災害対策基本法では,非常災害が発生して,国の経済と公共の福祉に重大な影響を及ぼすような異常,激甚なものである場合に,内閣総理大臣が,〈災害緊急事態〉の布告を発することができる旨を定めている(105条1項)。したがって現行法上,緊急事態に関する特別の措置は相当程度用意されているといえる。これらにはつねに権力の濫用の危険性があり,また自衛隊の治安出動のように,憲法に適合するかどうか疑わしいものもある。

                        浦田 一郎


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