2026年7月19日日曜日

[惹句どんどん] 村上春樹『夏帆』より





もの静かな孤独は彼女にとって、
古くからの親しい友人のようなものだった。



※iPhoneのカメラで読むとテキストに変換してくれます。けっこう正確でした。


幼賞を揃えた百円ショップがあり、テイクアウト専門の惣菜屋があり、チェーン店の薬局があった。買い物の便からすれば、足立区花畑よりむしろ住みやすいかもしれない。いずれにせよ気の向くまま通りから通りへと、新しい生活環境を探索してまわる作業は楽しかった。知り合いもまったくいない未知の土地での一人暮らしだが、とくに心細いとは思わなかった。夏帆は一人っ子だったし、小さなときから一人きりでいることに駅れており、とくに苦痛には感じない。もの静かな孤独は彼女にとって、古くからの親しい友人のようなものだった。更に友人がほしければ、そのうちに猫を一匹飼ってもいいかもしれない。

くれぐれも猫に化かされないようにな、という叔父の忠告の言葉を思い出して、夏帆は一人でくすくす笑ってしまった。まったくもう、いったいどこに運がいるのよ、叔父さん。今の武蔵境にはもう野原なんてぜんぜんないんだから。

その二週間のあいだ、ありくいの奥さんは一度も夏帆の前に姿を見せなかった。夜中に息を殺してじっと耳を過ませても、床下からは何ひとつ音は聞こえてこない。静かだー静かすぎるくらい静かだ。そこで大きなありくいの夫婦が生活を送っているなんて、想像もつかない。私が目にしたのはやはり幻影だったのだろうか!そう疑わずにはいられなかった。私の想像力が無意

鶏のうちにC一匹のありくいを出現させたのかもしれない。しかしありくいの奥さんの姿かたちゃ、彼女が口にしたことがらはあまりにもリアルで具体的だった。

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第二章 武蔵境のありくい