[積読立読斜読]『アメリカの鱒釣り』(リチャード・ブローティガン著、藤本和子訳、新潮文庫)
終活断捨離文庫100冊プロジェクトの一冊。
『アメリカの鱒釣り』は60年代カウンターカルチャーのカルト作家、リチャード・ブローティガンの代表作。
実際に執筆されたのは1961年から62年にかけて。アメリカでの単行本は1967年。注目したいのは日本語訳が1975年で、
世界同時出版がめずらしくない昨今と比べて、インターネットがない時代のオリジナル言語から翻訳までの時間が結構かかること。
ブローティガンの受容は日本ではこの時間差が逆に良い方に向い今日でもスタンダードとして文庫で手軽に読むことができる作品として残りました。
日本の読者が幸福だったのは、(1)藤本和子という稀代の翻訳家が翻訳したこと、(2)日本での出版社が70年代のカウンター・カルチャーの一翼を担った晶文社であったこと、
(3)装丁者が平野甲賀であったこと、という点で、アメリカ本国のビートニク・ブームに乗ってすぐに別の編成で日本語版が出たら、本国と同じように一時のブームとして終わった可能性が高いのでは。
ここらあたりの事情は同じリチャード・ブローティガンの新潮文庫版『芝生の復讐』で翻訳家・岸本佐和子の解説が理解しやすいです。
p265
リチャード・ブローティガンは、本国アメリカではビートニク文学を代表する作家として一時期もてはやされ、そしてビートニクと一緒にほとんど忘れ去られてしまった。
だがその間も日本では熱心なファンによって読み継がれ、ここ数年で相次いで復刊され、再評価の動きが高まっているのは、ひとえに藤本和子という理想の紹介者を得たからだろう。
この翻訳でなければ、そして『アメリカの鱒釣り』のあのすばらしい訳者あとがきがなければ、ブローティガンが日本でも進化を理解されないまま、単にちょっとシュールで幻想的なことを書くユーモア作家として、
面白がられ、すぐに忘れられていたかもしれない。私は藤本和子のいなかったアメリカの読者を、気の毒に思う。(2008年2月)。
ブローティガンが『アメリカの鱒釣り』で目指したのは巨大なアメリカの既存体制を「鱒釣り」に置き換え、柔かい反体制小説としての救済と思いますが、
ブローティガンは自分の書いた作品で自分を救済することができず、1984年にピストルで自殺してしまったのが残念です。
<内容紹介>
二つの墓地のあいだを墓場クリークが流れていた。いい鱒がたくさんいて、夏の日の葬送行列のようにゆるやかに流れていた。――涼やかで苦みのある笑いと、神話めいた深い静けさ。街に、自然に、そして歴史のただなかに、失われた〈アメリカの鱒釣り〉の姿を探す47の物語。大仰さを一切遠ざけた軽やかなことばで、まったく新しいアメリカ文学を打ちたてたブローティガンの最高傑作。
<著者プロフィール>
リチャード・ブローティガン(Brautigan,Richard)
(1935-1984)1935年ワシントン州タコマ生れ。1956年、ケルアック、ギンズバーグらビート・ジェネレーションの作家が集うサンフランシスコへ。だが彼らとは一線を画し、7年におよぶ長い詩作の時間をすごす。1960年代はじめ、初の小説『アメリカの鱒釣り』を執筆。1967年に刊行された同書は世界中で200万部のベストセラーに。ブローティガンは一躍カウンターカルチャーのイコン的存在となる。その後、『芝生の復讐』『西瓜糖の日々』『ビッグ・サーの南軍将軍』(いずれも藤本和子訳)など、イメージの万華鏡ともいわれる風変わりで愛すべき傑作を執筆。1984年、ピストル自殺。
<訳者紹介>
藤本和子(フジモト・カズコ)
1939年東京生まれ。翻訳家・作家。1975年、初めての訳書、ブローティガン『アメリカの鱒釣り』を刊行。作品の魅力をまっすぐに伝えるその斬新な訳文は、のちの翻訳にも大きな影響を与える。訳書に、ブローティガン『芝生の復讐』『西瓜糖の日々』『ビッグ・サーの南軍将軍』『ホークライン家の怪物』『東京モンタナ急行』ほか、トニ・モリスン『タール・ベイビー』、レイチェル・ナオミ・リーメン『失われた物語を求めて』など多数。著書に『リチャード・ブローティガン』『ブルースだってただの唄』『イリノイ遠景近景』ほか。編訳書に、シドニー・W・ミンツ『〔聞書〕アフリカン・アメリカン文化の誕生』がある。イリノイ州在住。
<装丁者のプロフィール>
平野甲賀(ひらの・こうが)
1938年、京城(現ソウル)生まれ。武蔵野美術学校デザイン科卒業。グラフィックデザイナー、装丁家。高島屋宣伝部、京王百貨店宣伝部を経てフリーデザイナーとなる。64年から晶文社の装丁を手がける。73年「ワンダーランド」創刊。78年「水牛通信」「水牛楽団」参加。84年「講談社出版文化賞」ブックデザイン賞受賞。92年「文字の力」展。2013年「平野甲賀の仕事1964-2013」展。著書に『平野甲賀 装幀の本』(リブロポート)、『平野甲賀〔装丁〕術・好きな本のかたち』『文字の力』(晶文社)、『僕の描き文字』(みすず書房)などがある。
https://book.asahi.com/jinbun/article/14336182

