本書はインターネット音源配信サイト『ラジオデイズ』が企画した「平川克美の100分授業」講演をもとに編集されたものです。新刊ではありませんが書店で少し立読みしてみたところ、講演の話し言葉で内容が理解しやすく、皆実28期のクラブ活動で立ち上げた地歴部向けに理論武装の必要もあり、購入してみました。
著者の平川克美さんは1950年東京生まれ。敬愛する内田樹さんと論調が同じで対談本もあることでなじむが深かったのですが、著書を読むのは初めてです。
本書の特徴は、鎌田の町工場のせがれとして生まれ、高度成長を含む日本の戦後史を皮膚感覚で語った、データを駆使した歴史書というより 「いわゆる政治史でもなければ、経済史でもなく、あえて言えば生活史的な側面から、戦後史を通覧したもの」とあとがきで述べられています。
戦後の日本経済の辿った道、それによって変化した国民の生活感覚を「人口の変遷」と「日本人に内在する精神構造」の二つ側面から考察していきます。
以下は内容抜粋。
戦後の日本経済を成長率からみると1956~73、74~90、91以降、の3つに大別できます。
(1)高度成長の時代
朝鮮戦争特需にきっかけを得た日本経済は、国民の敗戦の底で体感した窮乏感からの消費欲と生産意欲を梃子に、積極財政が展開され、企業側も旺盛な設備投資を行いました。中央銀行は金利を下げ銀行に貸し出しを促進し、企業は設備投資によって生産を上げ、その製品は作っただけ売れ、売れた分だけ給料は上がり購買意欲はそれだけ増加。さらに買い、さらに設備投資という好循環が続き、世界の脅威と言われた高度成長(年10%の成長率が20年近く続いた)となりました。これを助けたのが後述するGHQの「民主改革」(特に財閥解体と農地改革)であり、日本人の精神構造面からいうと、日本の伝統的家族形態から生まれた権威主義的価値観が企業活動に活かされたという主張です。特有の上下関係・組織運営・意思決定・労働観・忠誠・義理・人情など、これらが会社集団主義を形づくり、終身雇用も年功序列も「日本の家族形態が会社の形を借りて復活したのだ」と断言しているところは鎌田の町工場のせがれとしての自負かも知れません。
(2)安定成長の時代
1973年のオイルショック以後の17年間は成長率3~4%の相対的安定期となります。高度成長期に競争力を身に着けた日本製品に海外の投資マネーが投じられ「マネー資本主義」が始まりました。高度成長を支えた企業の家長的経営システムは変化せざるを得ません。「生きるため、食うために働いた」時代から、衣食足り「余暇や趣味、教育のために金を使う」時代となりました。生産社会から消費社会への移行。この間に家族形態も変わり核家族化が急激に進みます。社会の中心は家族から個人へとなり結果として「少子化」も進みました。
(3)バブル崩壊
1991年のバブル崩壊以降の記述は結構頼りなく、結論から言うと、従前の株式会社主導による経済成長はもうできないという主張です。日本と同じように世界の先進国中でも、人口は減少し、総需要は減退し、経済成長は糊代を失い、地球規模でフロンティアを探すグローバリズムでやらないと、企業は収益を確保できなくなりました。経済成長を前提とした法人資本主義というものは終わろうとしているという内容はわかるのですが、理論的な裏打ちはありませんでした。
著者の真骨頂はここからで、日本への最終的建言がユニークです。「経済成長しながら発展していくのではなくて、縮小均衡しながら、生き延びていくためのシステムを構築していく必要がある」「成長戦略がないことではなく、成長しなくてもやっていけるための戦略がないことが問題なのだ」「日本は経済成長無しでやっていかなくてはならない社会モデルを先進国の事例として世界に示す役割を担っているはずだ」と言われるのですが、具体的な政策までの言及はありません。
覇権国家から退いたオランダ、スペイン、ポルトガル、イギリス、などに好例がありそうですが、本書ではそこまで踏み込まれていませんでした。
専門的な学術書ではないのでときたま入る合いの手のような引用も興味深いところ。小津映画と戦争の影、「八紘一宇」をリングで実現した力道山、『あしたのジョー』とは誰だったのか。著者の見立ては『あしたのジョー』は日本の高度成長そのものであり、先進国に追いつき追い越した時にヒーローは不要となったというものです。
28期地歴部に関係ある記述は、GHQによる「民主改革」の箇所でした。著者は高度成長を後押ししたので経済機構の民主化(財閥解体・農地改革)と述べてます。私見では自由主義的な教育は均質で良質な労働者を生み出す教育システムという評価もできると思いました。一部のエリート教育機関だけでは、国民全体の高度成長につながらなかっただろう考えます。
P107
高度経済成長期の希望
GHQによる「民主改革」(建前上は戦前的な因習の改革(民主化))
(現実的には「市場の原理」(財閥・政治権力によってコントロールされない)を機能させること)
①選挙権賦与におる婦人の解放:選挙法改定、二〇歳以上の男女すべてに選挙権
②労働の組合化促進:「労働三法」制定
③自由主義的教育を行うための諸学校の開設:教育基本法など教育三法
④検察・警察制度の改革:治安維持法や特別高等警察を廃止
⑤経済機構の民主化:財閥解体、農地改革
経済発展に関しては⑤財閥解体・農地改革が効果的
[memo]
高校三原則
高校三原則(こうこうさんげんそく)は、第二次世界大戦終戦後の学制改革で実施された、新制高等学校教育の「小学区制・総合制・男女共学」の3つの原則を指す。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A0%A1%E4%B8%89%E5%8E%9F%E5%89%87
※本書の内容要約は、下記サイトの記事を参考にしました。
https://dokushojin.com/article.html?i=451
週刊読書人WEB
