2016年4月29日金曜日

[積読立読斜読] 『僕の名はアラム』(サローヤン、柴田元幸訳、新潮文庫、2016年)



『僕の名はアラム』(ウィリアム・サローヤン著、柴田元幸訳、新潮文庫、2016年)

原題は"My Name Is Aram"(1940)、新潮文庫の村上柴田翻訳堂の一冊。ながらく『わが名はアラム』といいう題名でアメリカ翻訳文学の定番だったようですが、近年文庫等でも品切れ状態のようです。

作者のサローヤンもアルメニア系移民で、カリフォルア州フレズノで過ごした少年時代(1915年から25年にかけて、7歳から17歳まで)を絶妙のユーモアで牧歌的に描いた名作です。

主人公は作者の分身のようなアラム・ガログニアンを取りまく友人や、オジサンたちとの連作短編で14編から成っています。

作者の少年時代は父親を早く亡くして、必ずしも幸福とはいいがたかったようですが、この小説では移民の貧しい少年という現実は前面に出さず、どの少年も持っている根源的な人生への楽しみを描いて、読後感が非常に爽快でした。

P15
僕が九歳で世界が掃除しうるあらゆるたぐいの壮麗さに満ちていて、人生がいまだ楽しい神秘な夢だった古きよき時代のある日、

という書き出しで連作短編の「美しい白い馬の夏」が始まります。

柴田元幸の訳は平仮名を多用し、7歳から17歳の少年の語り口を使い分けた名人芸ですね。

アルメニア人の歴史は相当悲惨なものですが、もし日本人が同じ境遇となり、他国で移民の子供として育ったときに、このユーモアで小説が書けるでしょうか。楽天的なのは作者の素質なのでしょうか、うらやましいですね。

村上柴田翻訳堂の第1回配本は新訳の『結婚式のメンバー』(村上訳)と、本書ですが。対比が面白いです。アメリカ南部と西海岸、少女と少年、寡と寡婦、抒情と諧謔。おそらくは意図的だと思います。ひょっとしてこのシリーズでアメリカ現代史が俯瞰できるような構成かも知れません。続巻が楽しみですね。

下記は『世界大百科事典』よりアルメニア人とサローヤンの記述です。


アルメニア人
アルメニアじん Armenian

イラン,トルコ,カフカスが接するアルメニア地方の住民。自称はハイ Hay。形質はコーカソイド人種のアルメノイド型で,インド・ヨーロッパ語族のアルメニア語を話す。アルメニア共和国を中心に,旧ソ連邦内各共和国,中東,アメリカ大陸等に分散している。人口は旧ソ連邦内に462万(1989),旧ソ連邦外に180万(1967)である。10~11世紀にビザンティン帝国の東進とセルジューク朝の侵入のために,政治的独立を失った多くのアルメニア人が母国を捨てた。移住者の主要な波はキリキア(小アルメニア)に向かい,ここにアルメニア人国家を建てた(1080)。十字軍の建設した諸国と共存関係を持ち,レバント交易で栄えたこの国家は,1375年エジプトのマムルーク朝に滅ぼされたが,その後は,オスマン帝国の首都イスタンブールがアルメニア人の商業活動の中心となり,アルメニア教会のカトリコス座も置かれた。また移住のもうひとつの波は,クリミア半島に向かい,主要都市にはアルメニア人商人,手工業者の居留地が置かれた。彼らの大部分は16~17世紀ポーランドに再移住した。16世紀アルメニアはトルコとイランの間に分割されたが,サファビー朝のシャー・アッバース1世(在位1588‐1629)は,イラン領アルメニアの住民多数を首都イスファハーン郊外のジョルファに移した。ジョルファ商人は,サファビー朝の対欧露交易の独占権を与えられて栄えた。しかし今日では,イラン系アルメニア人の経済活動の中心はテヘランである。トルコでは,対欧露政策をはじめオスマン帝国の抱えるさまざまな矛盾から19世紀にアルメニア人に対する迫害が始まり,特にアブデュルハミト2世治下の1894‐96年と,青年トルコ党政権下の1915‐18年には,組織的な強制改宗,国外追放,虐殺がおこなわれ,一説によると1915‐18年だけで150万人が死亡し,60万人が国外に移住したといわれる。アメリカ合衆国在住者の多くは,この事件の際の移民の子孫である。⇒アルメニア   北川 誠一

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サローヤン  1908‐81
 William Saroyan

アメリカの小説家,劇作家。アルメニア系移民の子としてカリフォルニア州フレズノに生まれ,幼時父を失い孤児院で過ごす。中学中退後,郵便配達など職を転々としたが,貧しい文学青年の意識を写実とファンタジーの混じった文体で描いた短編《空中ブランコに乗る大胆な若者》(1934)で認められた。以後,戯曲,長編,短編を次々に発表し,1939年には戯曲《わが心は高原に》がブロードウェーで評判となり,同年の《君が人生の時》で翌年ピュリッツァー賞の受賞が決定したが,彼は受取りを拒絶した。小説では少年を主人公にした《わが名はアラム》(1940)と《人間喜劇》(1943)が有名で,ユーモアとペーソスにあふれる自由奔放な語り口で,カリフォルニアを舞台に貧しい善良なアルメニア系の人々の底抜けに明るい生き方を描いている。その他《ロック・ワグラム》(1951),《人生の午後のある日》(1964),短編集《アッシリア人たち》(1950)などがある。            井上 謙治

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2016年4月26日火曜日

[新聞記事] エンゲル係数 「食べる」以外の楽しみ売るには



普通生活が豊かになるとエンゲル係数は下がっていくものとの認識ですが、昨年あたりからエンゲル係数が上昇しているそうです。



[その他] 10日と25日はお菓子の日




4月25日(月)は安佐南区方面に仕事で行ったので、前から気になっていた郊外型の洋菓子屋さんに寄りました。普段使いの洋菓子屋さんですが、材料は良質なものを使用されていると思われ価格がそれなりの値段でした。ビジュアルがまったく普通なので少しギャップがありました。

[新聞記事] 皆実28期 吉廣さんの投稿 中国新聞に掲載



2016年4月26日付け中国新聞投稿欄に掲載。

熊本の震災を受けて被災地の支援活動を希望するという投稿です。

震災の直接被害だけでなく避難先で慣れない生活よるストレスによって心筋梗塞に似た症状が出るそうです。



2016年4月24日日曜日

<日々是不穏 like a rolling stone> 大人に広がる子ども用皿




4月23日付け朝日新聞「私の視点」はキユーピー顧問のフード評論家岩村暢子(いわむらのぶこ)さんによる昨今の家庭の食事情の問題点について。

記事の論旨を箇条書きに。

・子ども用の仕切りのついたワンプレート食事皿で食事をする大人が増えている
・家庭用の食器は売れなくなっている(引き出物の減少、中食の増大など)
・持ち上げにくいため箸を使わずフォーク・スプーンでの食事が増えている
・大人用のワンプレートの食事皿も売れている
・現代の家庭の個食化によって季節・行事・料理によってえらばれてきた日本の食文化の器も変貌をとげている

昨年の有田、今年の萩、と焼き物で著名な地域を旅行したのですが、お世辞にも隆盛とはいいがたく、おそらく美術品に近い超高級品のみ生き残り、普段使いの器は記事にあるように安価なものに変わっていくのでしょう。

家族が揃っての手作りの食卓というのが、もはや贅沢な光景なのかも知れませんね。

[その他] 広島掃除に学ぶ会 幟町中学

担当・数量・区域が明記された掃除指示書


きちんと保管された清掃用具

開会式の様子

男子トイレを掃除する女子生徒



広島掃除に学ぶ会の活動で広島市立幟町中学校のトイレ掃除に参加しました。
掃除に学ぶ会関係者30人、学校関係者42人、合計72人の参加がありました。

写真は開会式と男子トイレを清掃中の女子生徒さんです。

幟町中学校は掃除用具まで気配りができている学校で、体育館の掃除道具は汚れがなく、担当の組、数量まで掲示がされていました。素晴らしい学校だと思います。




2016年4月17日日曜日

[立読積読斜読] 『結婚式のメンバー』(カーソン・マッカラーズ著、村上春樹訳、新潮文庫、2016年)




新潮文庫の新企画。しばらく入手困難になっているアメリカの小説を新訳または復刊というシリーズです。

第一弾は新訳で村上春樹訳の『結婚式のメンバー』(カーソン・マッカラーズ)と、柴田元幸訳の『僕の名はアラム』が刊行。

村上訳の『結婚式のメンバー』を読んでみました。マッカラーズは初めて読みました。

主人公はアメリカ南部の白人寡と黒人の料理人と暮らす12歳の多感な少女。大人への過渡期で揺れ動く心情を細部まで描いた秀作だと思いました。

思えば12歳の時の自分は、12歳の多感な少女に対して寛容でなかった気がします。いまさらながら申し訳ありません。

小説の構成は父親の影が薄く、母親的な役割をする料理人ベレニスとの濃密な関係が主軸で、主人公フランキーが憧れる「ここではないどこか」がアメリカ北部で、日常がアメリカ南部という横軸の読み方もできるようです。

発表は1946年で、公民権運動が起こる前の黒人差別が厳然として存在した時代ですが、ことアメリカ南部の一般家庭では顕在ではなかったことがわかります。


P62
「ドッグ・デイズ」と呼ばれる夏の真っ盛りに入った頃、フランキーの猫が姿を消した。ドッグ・デイズとはどのようなに日々なのか?夏もそろそろ終わりに近く、そこでは原則として何も起こらない。しかしもしなんらかの変化が訪れたとすれば、その変化はドッグ・デイズが終わるまでそこに留まる。起こったことは起こってしまったことであり、いったん生じた間違いが正されることはない。それがドッグ・デイズなのだ。

P94
ついに彼女には自分が何ものであるかを知り、これから自分がどこに行くかを理解することができたのだ。彼女は兄と兄嫁を愛しており、その結婚式の一員(メンバー)である。

P240
「でもそれって、どういうことなの?人々はばらけていながら、同時に縛られている。縛られていながら、ばらかえている。こんなにたくさんの人がいるのに、何が彼らをひとつにまとめているのかはわからない。そこにはなんらかの理屈だか繋がり(コネクション)だかがあるはじなのよ。なのにわたしはそれに名前を与えることができない。わかんないわ」

P240
「今だって煩う必要はないんだよ。誰もあんたに、世界の謎を解いてくれって求めているわけじゃないからね」、ベレニスはひとつ、意味ありげな深い息をついてからそう言った。

以下は新潮社のサイトから情報です。



http://www.shinchosha.co.jp/book/204202/

カーソン・マッカラーズ/著 村上春樹/訳


狂おしいまでに多感で孤独な少女の姿を繊細な筆致で描き上げた米女流作家の最高傑作! 村上春樹が新訳 ≪村上柴田翻訳堂≫シリーズ第一弾!

この街を出て、永遠にどこかへ行ってしまいたい――むせかえるような緑色の夏、12歳の少女フランキーは兄の結婚式で人生が変わることを夢見た。南部の田舎町に暮らし、父や従弟、女料理人ベレニスとの日常に倦み、奇矯な行動に出るフランキー。狂おしいまでに多感で孤独な少女の心理を、繊細な文体で描き上げた女性作家の最高傑作を村上春樹が新訳。《村上柴田翻訳堂》シリーズ開始。

カーソン・マッカラーズ/著
McCullers,Carson

(1917-1967)ジョージア州コロンブス生れ。アメリカの女性作家。南部の風土を舞台に社会に順応できない人々の孤独や少女の心理を精緻に描き、独自の小説世界をつくり出した。デビュー小説『心は孤独な狩人』(1940)や『結婚式のメンバー』(1946)は20世紀米文学の傑作と評される。中産階級出身で音楽的才能にも恵まれていた。長編・中編小説のほか、多くのエッセイ・戯曲を残している。

[惹句どんどん] カーソン・マッカラーズ(アメリカの小説家)



「ねえ、わたしにはまだうまく実感できないのよ。
この世界が時速おおよそ千マイルの速さでぐるぐる回転
しているってことが」


『結婚式のメンバー』より



2016年4月10日日曜日

2016年4月6日水曜日

[新聞記事] 高校寄せ書きノートの居酒屋

3月31日付け朝日新聞デジタル記事。新橋にある居酒屋「有薫酒蔵」では自分の母校について寄せ書きする「高校よせがきノート」が各校ごとに備え付けられており、すでに3千冊あるそうです。

ちなみに「有薫酒蔵」のHPで検索すると、比較的早い724番に皆実高校が出てきます。東京在中の皆実高校卒業生の手になるものと思われますが、都会暮らしも大変でしょう。頑張ってください。




              724.広島県立皆実高等学校



※下記朝日新聞記事より引用させていただきました。写真も同様。

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母校の郷愁、新橋の居酒屋で寄せ書き ノート3千冊に
(朝日新聞デジタル、佐藤太郎2016年3月31日16時45分)



「ノートづくりはしんどいけど、みんな高校生に戻ったようにノートを開いてくれるのがうれしい」と話す松永さん=東京・新橋の「有薫酒蔵」


 自分の母校について思いのままを書く「高校よせがきノート」が置かれている居酒屋が東京・新橋にある。作られて30年のノートは2月、3千冊に達した。茨城県内の高校もそのノートの一群に名前を連ね、卒業生たちが近況報告や学校、恩師の思い出などを書いている。

 居酒屋「有薫酒蔵(ゆうくんさかぐら)」。おかみの松永洋子さん(71)によると、1987年に福岡県の久留米大付設高出身の会社員が「上京した者同士が近況報告できる手段があれば」と1冊目を置いたのが始まり。店は九州の郷土料理店で、人づてで九州の高校を中心にノートがどんどん増えていった。

 北関東勢では群馬県立高崎東高の卒業生が62番目のノートを作成したのが始まり。九州、中国地方の高校が多い中で、群馬県に続き栃木県立足利高(110番)、埼玉県の立教新座高(116番)、茨城県立土浦一高(265番)と各県の高校の卒業生がノートを作りはじめた。

 ログイン前の続き2月23日には東京都の日本橋女学館高が3千冊目のノートを作った。松永さんは3千冊の高校それぞれに思い出がある。母校が何十年ぶりに甲子園に出場したこと。母校の前にあった名物食堂が店を閉じたこと。会社のリストラにあい、ふるさとに帰ること。母校への郷愁とともに人生の哀歓を感じさせる内容も多い。

 茨城県内の高校は22日までに57校がノートを作っているが、松永さんは江戸川学園取手高(824番)が気になっている。

 ある日、来店した5人の男性が黙々とノートに書き込み、その後ぱたりと店に来なくなった。ノートはリレーのたすきのように書き足すことで価値を帯びてくる。「江戸川学園取手の卒業生はたすきをつなげてほしい」と松永さん。

 よせがきノートの一冊一冊の裏表紙には、それぞれの高校の写真、校章、校歌などが貼られている。閉店後の深夜、松永さんがインターネットで探して切り貼りするなどして加工したものだ。「1冊つくるのにだいたい2時間。人一倍神経を使う」という。現在、30校近くが制作中で完成まで4カ月待ちの状態だ。

 壁一面によせ書きノートがびっしり並んだ店内で、松永さんは「あと500冊は置ける。それまでがんばりたいわね」と笑った。(佐藤太郎)

     ◇

 〈高校よせがきノート〉 当該高校の卒業生しか読むことや書くことができない。落書き帳にしないため、名刺を貼ることやできるだけたくさんの思い出を書くなど、暗黙のルールがある。おかみの松永洋子さんは山口県出身で18歳で上京。会社勤めのあと、結婚を機に夫と1978年に有薫酒蔵を開いた。店は東京都港区新橋1の16の4りそな新橋ビル地下1階、電話03・3508・9296。日曜祝日は定休日。

2016年4月3日日曜日

[新聞記事] "The Rise of Cons"



"The Rise of Cons"「コンベンションの台頭」


2016年4月3日付け朝日新聞別冊Glove連載記事「見出しを読み解く」はアメリカで最近人気のビジネス以外の趣味のコンベンションの話題。

インターネット内の交流のオフ会を組織化したコンベンションがアメリカで人気だそうで、「スターウォーズ」の熱狂的なファンの対象をしたコンベンションなどが有名だそうです。ただすでに疲弊化が見られるようで、継続して文化にしていくためには工夫が必要なのでしょう。


単語ノート
con:conventionの省略
the rise of -:~の台頭
mainstream:主流
obsessiveness:熱中、こだわり
far-flung:遠く離れた人
face-to face interaction:対面の交流
crave:切望する
swag:ロゴ入りの商品
sneak peeks:先行上映、プレビュー
devotee:熱心な愛好者
collective experience:集団的体験
bragging rights:得意げに話す権利
con fatigue:コンベンション疲れ
hard-core:熱烈な


2016年4月2日土曜日

[その他] 新潮文庫より海外文学企画、村上柴田翻訳堂 全10冊が刊行開始





画像は文庫本に挟んであったちらしから



新潮文庫より海外文学の企画シリーズが刊行。村上柴田翻訳堂と名付けられ、村上春樹と柴田元幸による海外文学新訳・復刊の全10冊。村上と柴田が2冊ずつ新訳し、あとの6冊は復刊という形がとられています。

久々に心躍る文庫本のシリーズですね。

復刊のうちフィリップ・ロスの『素晴らしいアメリカ野球』は高校時代に集英社の世界文学全集版で読んだ記憶があります。

4月は村上春樹・訳の『結婚式のメンバー』(カーソン・マッカラーズ)、柴田元幸・訳の『僕の名はアラム』(ウィリアム・サローヤン)というランナップ。11月に二人の新訳が加わるそうです。

大変楽しみ。

2016年3月31日木曜日

[積読立読斜読] 『フェルドマン博士の日本経済最新講義』(文藝春秋、2015年)



ブロガー、ちきりんさん大推薦の本。抜き書きして読みましたがすべての章が示唆に富み、ここ数年の日本の経済・政治問題を俯瞰する上での良書と思いました。

というわけで抜き書きしたら大変な量になりましたが。。。



『フェルドマン博士の日本経済最新講義』(文藝春秋、2015年)

<全体の章立て>
第1章 世界経済と日本
第2章 アベノミクスの評価と今後
第3章 エネルギー政策を考える
第4章 働きやすい労働市場にするために
第五章 少子高齢化の煉獄
第6章 地方再生と教育改革の進め方

<著者紹介>(文藝春秋による)
フェルドマン,ロバート・アラン
1953年、アメリカ・テネシー州生まれ。70年、AFS交換留学生として初来日。76年、イエール大学で経済学、日本研究の学士号を取得。84年、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。国際通貨基金(IMF)、ソロモンブラザーズを経て、98年モルガン・スタンレー入社(現・モルガン・スタンレーMUFG証券)。現在、同社の日本チーフエコノミスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


●まえがき

P2
経済学は何かと訊ねれれれば、「希少資源の最適な利用の学問」と答えます。さらに、その目的は、
「希少性からくる争いを減らし、世界を平和にすること」と言えるでしょう。

●第1章 世界経済と日本
P16
グローバル化には、いったん競争力を失った国からは、貴重な資源や人材がたちまち他国へ流れてしまうという特徴があるからです。

希少資源を最適に投入することが、産業に高い生産性をもたらし、経済を好循環させるのです。

P18
世界経済から見たとき、日本経済の強みと弱みは何か
(1)強みは、豊かな水と農地(効率が悪いので成長の余地が大きい)

日本の農業は、作付面積1平方キロ当たりの輸出額は千百万円ぐらいです。ところがオランダは、同じ面積でおよそ十億円の輸出額を誇っているのです。

都市部の土地の使い方、インフラ整備、よくない←規制・法律が問題

(2)オタク的な技術力の高さ


弱みは人材育成

国家予算における社会保障費の中身が高齢者に偏り、児童・教育への予算が少ない

今後もこの比重が減らなければ、世界に通用する人材を育てることはできません。

P24
義務教育のうちからグローバル化を意識して、人を育てていく必要があります。

また、日本には労働市場に柔軟性がないという特徴もあります。


<アメリカ>
P25
米国経済薄曇りの原因は?
アメリカの経済が元気よく上向かないのは、一言で言えばアベノミクスがないからです。

米国には成長戦略がありません。なぜないのかというと、民主党にしても共和党にしても「成長とは下から自然に上がってくるものであって、政府が決めるものではない。
市場経済なのだから、市場に任せる」という考え方だからです。市場原理主義から言えばその通りですが、理想と現実は違います。

(インフラ整備が)なぜ改善できないかというと、医療保険や公的年金といった義務支出にばかりお金を使っているからです。
アメリカの潜在成長力が薄曇りになっている一つの理由は、インフラを整備しない点にあります。

もう一つの問題は、教育です。義務歳出にお金が流れていて、教育に回す分が足りません。だから学校の教育水準が、非常に悪くなっています。

こうした矛盾が生まれる背景には、選挙制度が大きく影響しています。

下院の場合もっとも問題なのは、選挙区の線引きです。(いわゆるゲリマンダー)。

P30
アメリカの優れている点
(1)自己責任で企業を起こして儲けようという精神(パイオニアスピリット)。
(2)移民文化。

根性のある人たちが、きちんと教育を受けられるようにサポートする社会システムができていること。これは、アメリカの大きな長所です。


<中国>
・エネルギー問題が壁にぶつかっていること
・環境汚染問題も壁にぶつかっていること
・人口がそろそろ減少し始まること
・政治の問題も複雑

資本の使い方がよくない
石炭依存になっているエネルギーと環境の問題を解決できるかどうか

世界の決済通貨になる条件
(1)自由度が高い金融市場が整っていること(そのお金を使って短期・長期の投資ができること)
(2)他の国がその国にたくさん商品を売っていること

『ハーバード流交渉術』
「合意を引き出すフレームワーク」


1.人と問題を切り離して考える
2.条件ではなく利害に焦点を合わせる
3.両者に有益な選択肢を発想する
4.客観的基準を用いる


P44
TPPの日本にとってのメリットとデメリットとは?
デメリット
農林水産物の生産の減少、約3兆円(政府試算)

メリット
1.農業分野における輸出ビジネス・チャンス
2.国内農協改革(外圧利用)
3.商品検査の国際基準(コスト削減)
4.アジアの貿易環境の整備(中国が国内整備を行い遅れて参加か?)
5.日米関係強化

P49
欧州経済の問題点は何か

アメリカと同じく、アベノミクスがない

欧州中央銀行(FCB)の量的緩和はある
財政再建、成長戦略、がない

実際に移民を規制することになれば、「域内の移動の自由」というEU結成の基本理念に反しますし、欧州を成長させた「適材適所」の労働市場が危なくなります。
欧州は、経済的合理性と政治的合理性がかみ合っていません。

難民問題は受け入れ国のチャンス
難民の子どもたちはわずか20年先の貴重な人材です。


●第2章 アベノミクスの評価と今後







3つの目標
デフレ脱却、財政再建、成長加速

3つの政策道具
金融政策、財政政策(税・歳出)、構造政策

過去の経済政策では、明確に3つの政策をかみあわせることをしなかった

効果を上げた理由、アベノミクスのネーミングとセールス

「三本の矢」

1.大胆な金融政策
2.機動的な財政政策
3.民間投資を喚起する成長戦略

P58
1.大胆な金融政策
日銀がお金を大量に刷って広く撒く。お金が増えればいくつかの経路で、景気が良くなって、給料も物価も上がる、という非常に単純なマネタリスト理論です。

私は、非常にうまくいっていると評価しています。

P60
2.機動的な財政政策
短期的な政策:デフレが続いている間は有効的に十分にお金を使うこと
歳出構成が問題、社会保障費が上昇、教育・エネエルギーなどの成長率を高めるための予算が減っている

中長期的な政策:歳出削減が必須
安倍政権は2020年のプライマリーバランス(基礎的財政支出)をゼロを目標にしている(数兆円の歳出削減が必要と言われている)
第二の矢を成功させるなら、プライマリーバランスをゼロにするという現在の目標ではなく、負債比率を安定化する。そういった高い目標が必要です。

第3の矢
3.民間投資を喚起する成長戦略
P65、著者による進捗度合を測るレーダーチャート
農業=4 ◎
私は、第三の矢による農業改革を高く評価しています。日本の農業技術は、いろいろな部分で非常に優れています。ですが、それを活かして換金する仕組み作りが進んでいません。
農産物の輸出が現在のように少ないのは、国を貧乏にしているという罪です。これまでの農協の組織がそうした非効率の原因だとすれば、農業に担い手に対して迷惑ですし、消費者、納税者にも迷惑をかけていることになります。
農協の改革が必要なのはそういう理由で、改革が進めば地方再生にもつながります。

企業統治=4 ◎
2014年から始まった「JPX日経インデックス400」(株価指数)等で、企業を見る評価基準が厳しくなった。非常によくなってきた。

教育=3.3 ○
大学と民間との協業による産業化・商品化が規制緩和によって加速している

行政=3 ○
2014年、内閣人事局が官庁管理職の幅広い任免権を握ったことにより改革が進んでいる

税制=3 ○
税制改革が中小企業や個人の納税意識を高めるまでになっていない

医療=2.2 〇
日本の社会保障費は、年間およそ130兆円、約40兆円が医療費

後期高齢者の医療費が、本人負担3割、あるいは100%の想定をしてみれば、終末期医療はいまより道徳的になるでしょう。

ドイツは「臓器提供」に印、オーストリアは「提供しない」に印、ドイツでは提供者が少ない、オーストリアは100%近い

雇用=2 △
改革が進んでいない分野の代表、雇用ルール・労働市場
いま必要なのは大企業と中堅企業、男女間の格差をもたらしているルールを外すこと

日本の長期雇用には、運の良い人の雇用を保護するプラス面もありますが、30代半ばを過ぎたら転職できないというエントラップメント(知らずに罠に落ちる)にもなっています。
ルールを変えれば簡単なのですが、変えたくない人たちもいます。誰かといえば、700万以上貰っている人たちです。そして彼らが労働政策を牛耳っている現実があります。

エネルギー=1.3 ×
日本のエネルギー価格は、アメリカに比べて断然高い(産業用天然ガス7倍、電気代2.7倍)

移民=1 ×
有期外国人労働者の制度より移民がよい(スイスは滞在ビザ5年期限、期間中に法令違反がなければ更新)

選挙制度改革=0.5 ×
政治の問題を、なぜ経済のテーマとして取り上げるか。実は選挙制度にこそ、経済成長を左右する原因が潜んでいるからです。

とくにいまの選挙制度では、高齢者が多い地方の票が重いということが、基本的な問題です。つまりいまの選挙制度がこのままでは、国の財政において合理的なお金の使い方はできないのです。

P78
改革と景気の逆関係
政策と景気の絡み合いは常に循環
その様子をわかりやすく図に表したのが1990年代末から著者の考案したCRICサイクルの法則

経済になんらかの「危機」が起こると、政策が「反応」
すると経済は「改善」される
ひとたび「危機」が去ると政治も人々も安心し、「怠慢」になる

・危機(crisis)
・反応(response)
・改善(improvement)
・怠慢(complacency)




P82
日本の金融改革は成功例です。

かつて日本経済は、バブルで痛い思いをし、立ち直るのに「失われた十年」と呼ばれる長い年月を必要としました。しかしいくつかのCRICサイクル局面を経て、10年ほど前に問題をうまく処理できました。
経済成長戦略、セーフティ・ネット、資本注入、国民の支持、厳格な資産査定という5つの政策反応を実行して、ようやくうまくいったのです。

P83
景気をどう読むか。どの指標を採用してどう解釈するかによって、景気の読み取り方は大きく変わります。なるべくフォワードルッキングな、つまり予測力のある指標を用いることがポイントです。

P90
なぜ財政改革ができないのか?
この疑問に対する答えは、米国でも欧州でも、他の国もまったく同じです。「政治は既得権益に弱いから」、そして「有権者は甘いから」です。

P93
財政再建のために、選挙制度をどう変えればいいのか
著者の改革案、国会を株主総会のようにする(各選挙区の代表者に議決権を、その選挙区の人口比例で与える)
投票は権利でなく義務だという考え方を採用する(オーストラリアなど(投票率90%以上))


P96
●第3章 エネルギー政策を考える



経済について考えるとき、エネルギー問題は突出して重要

日本で暮らすことや事業を行うことは、多額のエネルギー代を負担することを意味します。家庭の光熱費は高いし、産業の競争力にはあらかじめ大きなハンデがついているのです。

エネルギーの価格は、地球全体の使用量によって変わる
3つの要因:人口、生活水準、使用効率…この3つの動向によって使う総量が決まる

エネルギー使用量=エネルギー使用効率×生活水準×人口

エネルギー使用量はquad(クワド)という単位で表すことがある

P99
地球温暖化は日本経済にどう影響する?(日本への影響)
食料品の価格が上がる
カリフォルニア州の水不足(農産物の輸入元)

P101
日本のエネルギーの使い方は、何が問題か

資源エネルギー庁がよく使う単位:エクサジュール

日本は他国に比べ、全体としてエネルギー効率が非常に優れている
技術を広げようとするペースが遅い
日本のエネエルギー政策は、原発再稼働に重点を置いてきたため

原油価格は安ければ安いほどいい?

資源が高くて手に入りにくくなった国は資源戦争に走ってしまう、または資源を持つ国が悪用する、という過去の歴史もあります。
地政学的な観点からそう考えれば、原油価格は安いほうが国際的な安定に貢献するのではないかと思います。この観点からも、設問への答えは「安い方がいい」です。

未来学的、高い方がいい、石油依存の現状からの脱出

P110
「石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない」と。(サウジアラビア、ヤマニ石油大臣)
すなわたい、技術進歩で時代が変わるということです。その通りだと思います。技術を所有する国は勝ちです。

P114
エネルギーはサプライチェーンも大事です。どこか一か所がよくなると、全体の仕組みが変わります。

P118
省エネはまだ可能性が高い
(日本は)家庭と商業施設でのエネルギーの使い方、中でも住宅は問題です。(効率が悪い)。

P121
日本のエネルギー予算の総額、年間1.2兆円
社会保障費は127兆円

エネルギー分野の研究開発費が少なすぎる

P122
日本のエネルギー政策を強くする方策
(1)効果的な金額と配分
(2)世界的な協力
(3)社会保障費と縦割り行政を減らすこと

残念ながら現状は、原発をどうするかという議論ばかりです。それも大事ですが、部分ではなくエネルギーのサプライチェーン全体像を見て、どこがボトルネックになっていてどんな技術を開発してそれを解消していくかを考えることがベストミックスへの道です。

エネルギー問題は各国共通です。世界の生活水準は上がっていきますから、エネルギーの需要はぐんぐん上がります。日本人はいま、一人平均で年間7752kWhぐらい電力を使っています。アメリカはそのほぼ2倍です。

P128
雇用と労働を考えるときの大原則

雇用と労働について考えるとき、大事な原則が2つあります。
ひとつは「同一労働同一賃金」。もうひとつは「適材適所」です。この2つの原則から外れた現実や矛盾があると、経済効率が損なわれます。


同一動労同一賃金を実現するために大事な前提条件は、労働移動の自由です。

動労市場が公平公正であり、効率的であることも大切です。よく言われるのは、公平公正と効率は代替関係にあるということ。公正であるほど効率は下がるといわれるのですが、これは大きな間違いです。

労働市場や労働ルールについて考えるときは、fair=efficient、すなわち公平公正=効率ということを忘れてはいけません。

日本の労働市場は、流動性に欠けています。

「移動が多いほどいい」のではありません。「移動する自由があること」が必要です。移動できるルールがあれば、労働者自身と勤め先によって仕事を決め、需給が労働条件や待遇を適正水準にする効果をもたらします。

日本の企業は(安定成長とグローバリゼーションによって、公平なルールに基づく競争の時代に移ったにもかかわず)、年功序列と終身雇用を改めませんでした。その結果、何が進んだかというと、格差の拡大です。すなわち、年功序列、終身雇用の企業に入る社員は、高い給料をもらえるが、同じ仕事をしてもそうではない企業に入る社員は低い給料のままということです。流動性を阻む日本式雇用は、結果として産業全体の労働生産性を下げています。

格差が非効率を広げます。



P153
年功序列の賃金制度をやめれば、会社にとって定年はあってもなくてもいいはずです。

現在の雇用と給与のシステムは、労働者の生産性やスキルをベースにしておらず、生産性、スキルの改善を損なっています。

「高齢者の健康寿命を伸ばそう」とよく言われますが、「労働寿命ももっと伸ばそう」ということも必要です。いわゆる「終身現役社会」は正しい概念です。

できるだけ長く働くために、年金の支給開始年齢を遅らせる。予防医療の充実を維持し、シックケアではなくヘスルケアを徹底して、スキルアップを組み合わせることです。

アベノミクスの成長戦略の中でも、高齢者の労働を増やしましょうという合言葉は出ていますが、具体策、予算(他の歳出を削減という前提)は少ない。もっと働きたいという高齢者自身の意欲を汲み、喫緊の課題として考えるべきです。


P159
●第5章 少子高齢化社会の煉獄


P165
この結果からわかることは、家庭における男性の役割です。つまり少子化問題は、家族の中の男性の役割、女性の役割をどうやってシェアするのかという家族のあり方の問題です。

高齢者のために使っている医療費や年金を減らし、現在の若者の教育と、子どもを生み育てやすくするための政策に回すべきです。

いまの医療制度は基本的にヘルスケアではなくシックケアです。病気になってから医者にかかって、治療をします。それでは遅いのです。お金もかかるし、元の健康を取り戻すのも難しい。シックケアからヘルスケアへ、つまり健康管理、予防医療へと大きくシフトする以外に財政再建は無理です。その意味で、健康管理と予防医療に重点を置くことは、10年先や20年先に払わなければならない医療費を削減することになります。鍵となるのはインセンティブです。



「保健医療2035提言書」(厚生省の懇談会)
1.公平・公正:将来世代も安心・納得ができ、医療サービスに応じた評価が行われる
2.自律に基づく連帯:一人ひとりが保健医療における役割を主体的に果たす
3.日本と世界の繁栄と共生:日本が持っている医療技術を世界で使えるようにする

P178
「共同責任」は共倒れの連鎖反応になり、「自己責任」は連帯を強化できる社会の実現をもたらします。

結局は国民が増税と歳出削減の組み合わせを選択せざるを得ないのです。

P182
●第6章 地方再生と教育改革の進め方

地方経済が行き詰った理由は?
政界・役所にとっては都合がいいが必ずしも市民のプラスにならない、という制度になっているのです。こうなってしまった原点はどこにあるかというと、昭和20年代にマッカーサー元帥が行った農地改革までさかのぼります。

農地改革は、経済効率を向上させることが目的ではなかった。むしろ、左派勢力が広がらないように、地方を民主化することが目的でした。

都道府県の合併も行うべきです。全国に9ぐらいでいいと思います。(デンマークの例)

憲法を改正せずに参議院の定数を2人にすることです。

地方経済の生産性を高めるためには?
選挙制度改革を進めると同時に、稼ぐ力をどう増やすのかが問題になります。ごく普通の経済常識で考えれば、答えは「生産要素」と「生産性」です。付加価値を上げる生産要素は
、資本、労働、土地(地方ではとくに農地)です。

地方で有望な産業は、農業、エネルギー産業

地方再生プランを長期的なトレンドで考えると、エネルギー、インフラ、高齢化を考え合わせる必要があります。

教育再生に欠かせない条件
教育の経済効果を考える際に難しいのは、即効性がないこと、生産関数や費用対効果がよくわからないことです。

遅くとも12歳ぐらいまでに一度、2週間でも3週間でもいいから海外へ行って過ごすことが非常に効果的だと思います。

留学は収益率の高い投資です。

労働改革と教育改革がかみ合うように政策と労働習慣を再構築する必要があるのです。