2015年12月2日水曜日

[惹句どんどん] ミランダ・ジュライ(アメリカの作家、映画監督、女優)




五年たったら、わたしたち四十よ。
四十なんてほとんど五十だ。五十を過ぎたら、あとはもう小銭だ。
小銭?
本当に欲しいものを手に入れるには足りないってことだよ。

彼の六十二年ぶんのロマンチックで卑猥なカードのことを考えていたら、胸のなかで何かがゆるやかにほどけていくのがわかった。

自分の残りの人生について、もしかしたらわたしは計算ちがいをしていたのかもしれない。もしかしたら残りの人生は小銭なんかじゃないのかもしれない。

いや、あるいは最初から最後まで全部が小銭だったのかもしれない。

数えきれないくらいたくさんの小さな瞬間の寄せ集め―一つひとつの祝日も、バレンタインも、新年も、うんざりするほど同じことの繰り返しで、なのにどれ一つとして同じものはない。それで何かを買うことはできないし、もっと意味のあるものや、もっとまとまったものと引き替えることもできない。すべてはただ何ということのない日々で、それが一人の人間の―運がよければ二人の―不確かな記憶力で一つにつなぎとめられている。

だからこそ、そこに固有の意味も価値もないからこそ、それは奇跡のように美しい。


『あなたを選んでくれるもの』(ミランダ・ジュライ著、岸本佐和子訳、新潮社、2015年)


※ポートレイトは下記のサイトからお借りしました。
http://nicorako.com/portfolio/117/