2026年5月5日(火曜日)付朝日新聞。
時鳥と兄弟
ほととぎすときょうだい
小鳥前生譚に属する動物昔話。盲目の兄が弟の好意を邪推,弟の腹を割いて殺した後,真実を知ってホトトギスに化し“弟恋し”と毎日八千八声鳴くという話。全国的に分布し,おもに兄と弟の悲劇を語るが,親と子,和尚と小僧の話になっている地域もある。鳴声も各地で異なり,〈包丁かけたか〉(岩手),〈弟腹切っちょ〉(東京),〈弟恋し,芋掘って食わそ〉(石川),〈ほーろんかけたか〉(奈良),〈弟いるか〉(長崎)と多様である。これは旧4,5月ころ,昼夜にわたり人里近くで鳴くホトトギスの声に,人々が多大の関心を寄せていたことを示している。ちょうど田植時であることと,ホトトギスがこの世とあの世を往来する霊鳥とみられていたことがその要因である。盲目の兄が弟殺しを懺悔する内容であるところから,この話は盲人が管理し各地に伝播させたといわれている。ホトトギスの前生を語る話は他に〈時鳥と包丁〉〈時鳥と小鍋〉〈時鳥と継母〉〈時鳥と計算〉などがある。 大島 広志
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ホトトギス(杜鵑∥時鳥∥不如帰)
ホトトギス
ホトトギス目ホトトギス科の鳥の1種,または同科の総称。ホトトギス Cuculus poliocephalus(英名Eurasian little cuckoo)(イラスト)はカッコウ類の1種で,全長28cm,背面とのどは暗灰色,腹面は白と黒の横縞模様をしている。雌雄同色だが,雌にはまれに全体に赤褐色の羽色をした赤色型がある。カッコウやツツドリによく似ているが,この種のほうがひとまわり以上小さい。
ヒマラヤから沿海州にかけてのアジアの東部で繁殖し,秋・冬季には南アジアや大スンダ列島に渡る。日本には夏鳥として5月中旬に渡来し,九州から北海道中部までの各地で繁殖する。ただし,九州では通過するもののほうが多い。“キョッキョ,キョキョキョ”と鋭い大きな声で鳴き,この声は“テッペンカケタカ”とか“特許許可局”とも聞こえる。初夏を告げる鳥としてよく知られ,昔から短歌や俳句によく詠まれている。この鳴声は日中だけでなく夜間にも聞かれる。低地から山地にかけての森林にすみ,樹上で昆虫,とくに毛虫をとって食べる。
托卵(たくらん)の習性をもち,巣づくり,抱卵,育雛(いくすう)はいっさい行わない。托卵相手はほとんどがウグイスで,まれにミソサザイやセンダイムシクイにも托卵する。卵はウグイスの卵と同じチョコレート色をしていて,一つの巣に1個だけ産みこむ。この際,巣内のほかの卵を一つ飲みこむか捨てるかしてしまう。雛は約10日で孵化(ふか)し,まだ孵化していないほかの卵を背中に一つずつのせて,巣の外に放り出してしまう。こうして巣内を独占し,仮親の世話を自分だけのものにして育つ。
ホトトギス科 Cuculidae(英名 cuckoo)の鳥は,極地や大洋島,高山を除いてほとんど全世界に広く分布しており,約130種に分類される。全長28~55cm,くちばしはじょうぶで下方に湾曲しており,尾は一般に長く多少ともくさび状である。対趾足であしゆびは2本ずつ前後に向かいあっている。羽色は全体に灰色や褐色のじみなものが多い。羽毛は密に生えているが,皮膚が薄いため抜けやすい。かなり多様な分類群であるため,この科は一般にカッコウ類(50種),キバシカッコウ類(30種),オオハシカッコウ類(4種),ミチバシリ類(13種),コウア類(10種),バンケン類(27種)の6亜科に分けられる。生態のうえでもかなり多様で,森林,低木林,農耕地,草原,荒地,半砂漠などさまざまな環境にすみ,昆虫や小動物をとって食べている。単独生活をしていることが多く,大きな群れをつくることはない。托卵の習性をもっているものはカッコウ類の全種とミチバシリ類中の3種である。日本ではカッコウ類のカッコウ(イラスト),ホトトギス,ジュウイチ(イラスト),ツツドリ(イラスト)の4種が繁殖する。 誇口 広芳
[民俗] ホトトギスは独特の鳴声で,田植や山芋を掘る時期を知らせるので,農事に関係の深い鳥として〈四手(しで)の田長(たおさ)〉と呼ばれた。山芋は端午の節供のハレの食物でもあったので,熊本県阿蘇郡ではこの日に山芋を食べないとホトトギスになると伝えている。ホトトギスは季節の節目を告げる〈四手の田長〉としてその初音が待たれる一方,俗に〈一日に八千八声〉という昼夜をおかぬその鳴声が陰気で悲痛に聞こえるというので,〈死出の田長〉であるとも考えられた。ホトトギスを〈魂迎え鳥〉とか〈冥土の鳥〉とか呼んで,霊界との関係が深い鳥とみなす例は多い。
中国には蜀王望帝の魂が死後化してホトトギスとなったとする俗信があるが,日本にもホトトギスを主人公とする小鳥前生譚の昔話が数多く伝えられている。その一つである〈時鳥と兄弟〉では,飢饉の折に食物をめぐる邪推から弟(または兄)を殺してしまった盲目の兄(または弟)が,化してホトトギスになり,前非を悔いて鳴くのだと語られている。この話は東欧と中国,日本にとくに多く分布する。また,ホトトギスの鳴声をまねるのは禁じられ,これを犯すと吐血して死ぬとかいわれた。なお,ホトトギスはウグイスの巣に托卵する習性があるので,ホトトギスを〈鶯の養子〉という地方がある。
佐々木 清光
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