あまりミステリー好きではありませんが、アンソニー・ホロヴィッツの新刊は出れば読んでます。理屈抜きに面白いので。新刊は『その裁きは死』(山田蘭訳、創元推理文庫、2020年)原題は"The Sentence is Death"。
<内容紹介>実直さが評判の弁護士が殺害された。裁判の相手方が口走った脅しに似た方法で。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた謎の数字“182”。被害者が殺される直前に残した奇妙な言葉。わたし、アンソニー・ホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンによって、奇妙な事件の捜査に引きずりこまれて──。絶賛を博した『メインテーマは殺人』に続く、驚嘆確実、完全無比の犯人当てミステリ。解説=大矢博子 東京創元社のサイトより
元刑事の探偵ホーソンと、語り手である「わたし」(=作者自身という設定、アンソニー・ホロヴィッツ)シリーズの第二段です。
殺人事件の周辺にいかにも妖しそうな容疑者がずらりと並び、結末前までに読者の前にヒントはすべて開示されるという古典的な「犯人当てミステリ」、いわゆる"whodunit"もの。
作者のアンソニー・ホロヴィッツの経歴は下記の通りですが、古今東西のミステリーに通暁しているようすで(あとがきでは島田荘司の『斜め屋敷の犯罪』が愛読書だそう)、流石にクラシックな構成を取らず、作品内にもう一つ作品があるような「メタ・フィクション」の構成をとるのが新鮮なのと、登場人物の人物設計が詳細でいかにもという人物を作り上げてますし、ロンドン周辺を列車移動の描写も多く、当方は地理に詳しくありませんが、ロンドンの情景が目に浮かぶようです。
残念ながら犯人はわかりませんでした。
<作者紹介>アンソニー・ホロヴィッツ
1955年4月5日、ロンドン生まれ。
イギリスを代表する作家。ヤングアダルト作品〈女王陛下の少年スパイ! アレックス〉シリーズがベストセラーになったほか、人気テレビドラマ『刑事フォイル』『バーナビー警部』の脚本を手掛ける。コナン・ドイル財団公認のシャーロック・ホームズ・シリーズの新作長編『シャーロック・ホームズ 絹の家』『モリアーティ』、イアン・フレミング財団公認の『007 逆襲のトリガー』で、翻訳ミステリ界の話題をさらった。
本作品の容疑者で一番怪しかったのが、被害者の離婚専門の弁護士が扱った裁判の相手方、日本出身の女性作家、アキラ・アノン。人物描写からはオノ・ヨーコさんの風貌のようですが、人物の作り込みが丁寧で架空の作品も相当取材した上で導入されています。
俳句集『200句』のうち182番が「君が息 耳に告ぐる 裁きは死」となっていたり、『ヒロシマの涼風』という作品は、韓国出身の慰安婦が原爆によって白血病で死ぬという構成。アキラの作中講演会の発言もよくこなれています。
比喩として、核兵器に性的な意味が付与されているのは自明のことです。実際に使用された二発の爆弾には、《ファットマン》《リトルボーイ》という名がつけられているいっぽう、それを投下された都市はどちらも、もともと女性的な響きの名を持っていました。とくにヒロシマのほうは、無声の音素から始まりますからね。
という具合です。
今回は語り手のアンソニー・ホロヴィッツ、素性がはっきりしない元刑事のダニエル・ホーソンに加えて、ロンドン警視庁警部役に女性のいけ好かないカーラ・グランショーという役を設定して、作品に奥行きを持たせた点も評価できます。
このシリーズは原題が"word"、"sentence"ときたので、次作は"paragraph"になって、ホーソンの人物の全貌がまた少し明らかになると期待されます。(作者弁、全10冊を予定しているそうです。)