『一汁一菜でよいという提案』(土井善晴著、グラフィック社、2016年)
書評サイトの「HONZ」でタレントの麻木久仁子さんが取り上げていたので読んでみました。麻木さんが書評で取り上げた理由は子育てと仕事を両立させなければならず、ご自身の子供に対して品数の多いプロ並みの料理を作ることが時間的に制約があったことを長く悔やまれていたそうですが、この本の一説が救いになったそうです。
食育では、一緒に食べることの大切さ、家族揃って食卓を囲むことの大切さが説かれます。けれど、商売を やっている家庭や、親が働いている家庭では、一緒に食卓を囲めないのは当然で、親が用意した汁を自分た ちで温めて、子どもだけで食べる。そんな家庭はたくさんあると思います。それでも、大切なものはもうす でにもらっています。それが手作りの料理です、愛情そのものです。だから、別に一緒に食べることばかりが大切じゃないのです。
だれもいない夜、両親の帰りが遅いとき、鍋焼きうどんの材料が全部入った皿が台所に用意してあったら嬉 しいでしょう。うどん、鶏肉、かまぼこ、しいたけ、ねぎの切ったものが入っています。一人用の土鍋に入 れて、だし汁を張って火にかけて煮立てて、うどんを煮込みます。熱々の鍋焼きうどんをテレビの前で一人で食べた夜は、私にとって大切な思い出です。
土井善晴さんが提案しているのはタイトル通りの「一汁一菜」です。飯と具だくさんの味噌汁があれば、あとは香の物で良い、おかずを付けたなら、味噌汁の具は減らして全体のバランスをとる、膳はきれいな三角に整う。愛情を料理の品数の多さで目に見える形にしなくてはというプレッシャーや、プロの料理人の味こそ目指すべきと思い込んで“日常”を見失ったことで、複雑になりハードルが上がってしまった「家庭の料理」を“初期化”しようというのが土井さんの提案です。
プロの料理研究家として本書を執筆したきっかけの一つに和食の世界無形文化遺産登録があるそうです。意外ですが、土井さんによればこれは和食が「絶滅危惧種」であるという証明だそうで、絶滅させないためには高級和食料理店の存続ではなくて、家庭でできる昔ながらの「一汁一菜」の実践こそが、日本の食文化の伝承につながるという壮大な試みです。
また家庭内で料理を作るという行為こそが子供への最大の教育になるそうです。外食や中食の情報量と比べて、ちゃんと調理した家庭内の食事の情報量は膨大なものがあります。グルメ番組の蘊蓄とは次元の違う話です。
料理研究家自身から本書のような提案がなされるのは画期的だと思いました。
印象的な表紙デザインは佐藤卓さん。土井さんの書いた鉛筆文字をデザインし、地の白はご飯の色、文字の緑は菜の色、帯の茶色が汁の色(佐藤さんが朝食で飲んだ味噌汁の色だそうです)。秀逸でした。
2017年は大脇家も「一汁一菜」にリセットすべく、早速味噌汁と漬物の料理本をアマゾンで注文しました。
もう一度タイトルに注目。「一汁一菜という提案」ではなくて、「一汁一菜でよいという提案」です。力強いです。
