これは私が観ている夢なんかじゃなくて、
クレペリン検査が見ている夢なのかもしれない
もしかしたら、これは私が観ている夢なんかじゃなくて、クレペリン検査が見ている夢なのかもしれないと、起きてから私は思った。もしかしたら、クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見続けて、ほとほと嫌気がさしているのかもしれない。もしかしたら、クレペリン検査は自分自身を解かせたくないのかもしれない。何しろ、日本のどこかでクレペリン検査が行われている限り、クレペリン検査は理不尽な、数字の化け物であり続けるからだ。これは、私が見ているこの夢は、クレペリン検査の反乱なのかもしれなかった。クレペリン検査と私は、同じ夢に囚われている。(P65)
『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』(松田青子著、中央公論新社、2021年)収録の短編「クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見る」より。日常の不条理を軽やかに切り取って新鮮です。
クレペリン・テスト
Kraepelinscher Rechentest[ドイツ]
心理検査の一つ。ドイツの精神医学者クレペリンは,人間が単純な作業を継続した場合には,作業量と経過時間の間には一定の法則があることを認め,連続加算法による作業量と単位時間当りの変動に寄与する因子に考察を加え,1902年《作業曲線》という論文を発表した。日本では絃崎浅太郎らがこれを取り入れ,24年には内田勇三郎が30分法(15分施行,5分休憩,10分施行)を提唱し,初め精神障害者に,後に一般人について吟味し,性格類型と曲線の関係,精神障害との関係を追求し,適性検査として開発した(内田=クレペリン精神作業検査)。具体的には,横に数字が印刷されていて,その隣りあった数を順次加え,その和の1位の数字を次々に記入し,各行の作業量,動揺,休憩効果などから曲線を判定する。今日では,個人についての曲線の詳細な判定と,集団内での成績の良否の二つの観点からの判定などが工夫され,産業界における採用時の選抜テストとして用いられている。 秋谷 たつ子
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2020年1月26日日曜日
[積読立読斜読] 『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短編29』より 松田青子

