2021年5月5日水曜日

[積読立読斜読]  『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(ジェシカ・ブルーダー著、鈴木素子訳、春秋社、2018年)


映画『ノマドランド』の原作となったノンフィクション。アカデミー賞候補となったことで増刷がかかったみたいで書店に在庫有で、読んでみました。(県立図書館の同書は人気なのか常時貸出中)。


リーマンショック後にアメリカで急増した車上生活者を「ノマド」と称して取材した本です。ローンを組んで住宅を購入したもののレイオフに会い、年金まではまだ年数があったり、そもそも年金の少ない女性高齢者も多く存在するようです。本書の主な取材先のリンダさんも60代前半のノマドです。ノマドは「ワーキャンパー」とも呼ばれ、季節労働者として生活の糧を得ながら(クリスマスの繁忙期のアマゾン倉庫、夏場の国立公園、収穫期の農場等)全米を移動しています。


なんとなくRVで全米を回っている人はお金に余裕のあるリタイアした人かと思っていましたが、このノマドのような人たちは増加の一方だそうです。


かといって希望が見出せないわけではなく、ローンや仕事からの軛から逃れて、季節労働の仕事はきついけれども、束縛されない生活を楽しむポジティブな人たちもいて、相互助け合いのコミュニティもあるようです。


本当の最底辺の人はRVも買えないでしょうから、本書には登場しておらず、まだ前向きに生きたいと願っているところが救いなのかも知れません。


主な取材先のリンダさんの夢が、自給自足の家「アースシップ」を建てて定住することなのは、皮肉かも。


著者のジェシカ・ブルーダーさんは女性ジャーナリストで、ノマドからの取材を3年以上続け、実際にRVを入手してノマド生活を送り、季節労働者としてアマゾンの倉庫、ビーツの収穫場での労働経験を積んでの執筆で、非常に現実味のあるノンフィクションの傑作と思います。


格差の進む日本でも同じような現象が起こる可能性がありますが、日本人はここまでポジティブになれるでしょうか。


P287

アメリカは地球上で最も豊かな国である。しかし国民の大半は貧しく、貧しいアメリカ人たちは自分を卑下せざるを得ない状況におかれている。(中略)賢く、徳が高く、したがって権力や富を持つもの以上に尊敬される貧民の物語は、世界各国の民間伝承にも見うけられる。しかしアメリカの貧民のあいだに、そのような物語は存在しない。彼らはみずからを嘲り、成功者たちを称揚する。


カート・ヴォネガットの小説『スローターハウス5』(早川書房、伊藤典夫訳)より



<内容>

リーマンショック後の新しい高齢貧困層を密着ルポ。グローバル企業の舞台裏と、労働力の使い捨てが常態化する現代社会が浮び上る。


2000年代に新しい貧困層が現れた。一見、キャンピングカー好きの気楽なリタイア族。その実、車上生活しながら、若者もひるむ過酷な現場を渡りあるいている人々がいる。多くはリーマンショック後に路上に出た。彼らはなぜ伝統的なライフスタイルに背を向けたのか? 彼らを必要とする企業の思惑とは?気鋭のジャーナリストが自ら車上生活をこころみ、三年にわたって数百人に取材、老後なき時代の現実をルポした。日本の明日を予見するノンフィクション。


出版元の春秋社のサイトより。