松田青子さんの新刊短編集(11編収録)です。アンソロジーでは作品を読んだことはありましたが、まとまったものを読んだのは初めてです。アンソロジーの作品が印象に残っていたのと、最近の新聞記事のヴァージニア・ウルフの紹介記事に寄稿されていたのと、本屋の平台に「新刊」としてあったのと、不思議な題名に惹かれて読んでみました。
著者は1979年生まれ兵庫県出身、同志社大学文学部英文学科卒業。劇団員や女優、書店アルバイト等の職を転々として、2010年に早稲田文学誌でデビューという遅咲きの異色な経歴の作家です。
同志社大学が母体の劇団「ヨーロッパ企画」に所属されていて、同劇団が喜劇主体の作品(SF、不条理系列か?)だったのでしょう、作風も影響があるようです。
全部の作品を読んだわけではないのですが、基本的にアイデアを昇華させて作品を作る短編小説作家との印象です。
本作もおそらく日常のさりげない実体験がもとになったアイデアを作品にしたものです。さりげない実体験は一般人ならすぐに忘れてしまいそうなエピソードばかりです。
広義にはジェンダーと世間のずれを表した作品かと思います。松田さんのインタビュー記事では女性同士のゆるいつながりの支え合い「シスターフッド」が根底にあるそうです)。
SFあり不条理あり怨念あり諧謔あり、文体も作品によって大きく違い、好き嫌いが別れそうな作風です。
「許さない日」
なぜか体操着のブルマがほとんど下着のようなぴちぴちの時代がありました。思春期をその時代に送った作者の「許さない日」だそうです。
P95あのおぞましい生地を細かく、細かく、切り刻んでいく。本当のハサミもいいけど、想像のハサミで事足りる。頭の中のハサミを鋭く尖らせて、わたしたちは切って、切って、切る。
「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」
表題作は、ある映画好きの女の子の半生を描写する。良いと評されるものを、彼女は片っ端から見る。自身の感性と響き合わない作品を「何しろこれは傑作なのだから」見る。「男が選んだ男の傑作」で「それなりに時間を無駄にした」と気づくのは何十年もたってからだ。だが彼女はそれで終わらない。
「桑原さんの赤色」
小さな事務所に張り出された〈女性募集〉の求人。非正規社員の女性が投げかけられた「みんな結婚しているんで」のひとこと。何か妙だと感じるものの、込められた意味に気づくのはずっとあと、ということは珍しくない。赤いアイシャドウは「復讐」。
P85桑原さんは復讐したかったのだ。何かには今更夜野(注:語り手の女性の名前)にはわかりようもないけれど、何かに。もしかしたら、桑原さん自身も、自分が何に復習したいのかわかっていなかったのかもしれない。
「ゼリーのエース(feat.『細雪』&『台所太平記』)」は、正吉と妻の美佐子が作るゼリーの話。ゼリーたちは身が固まり始めると冷蔵庫の中でおしゃべりを始めます。
しかし、なかにはなかなか身が固まらないゼリーもいて……。
「誰のものでもない帽子」
幼い子・乃蒼(のあ)を連れて知らない街のホテルにチェックインした“私”の話。部屋には洗濯機やシンク、小さな冷蔵庫が備え付けられていて、ベッドの脇には先に送っておいたスーツケースが横たえられていました。
「女性同士がつながり支え合うことを『シスターフッド』と言いますが、これにはさまざまな形があると思うんです。女性4人の人生と友情を描いたアメリカのドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のような強固なつながりではなくとも、何かしらの形でゆるくつながっていることが大事で、それが希望だと考えています。
<著者プロフィール>
PROFILE
まつだ・あおこ◎’79年、兵庫県生まれ。同志社大学文学部英文学科卒業。’13年、デビュー作『スタッキング可能』が三島由紀夫賞及び野間文芸新人賞候補。’19年、「女が死ぬ」がアメリカのシャーリィ・ジャクスン賞短編部門の候補、’20年には『おばちゃんたちのいるところ』がLAタイムズ主催のレイ・ブラッドベリ賞の候補(英訳:どちらもポリー・バートン)となった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f8901055bad1344bdeaa15738ddb448a8a5b1f30?page=2
<内容紹介>
男の子になりたかった女の子になりたかった女の子
松田青子 著
コロナ禍で子どもを連れて逃げた母親、つねに真っ赤なアイシャドウをつけて働く中年女性、いつまでも“身を固めない” 娘の隠れた才能……あなたを救う“非常口”はここ。『おばちゃんたちのいるところ』が世界中で大反響の松田青子が贈る、はりつめた毎日に魔法をかける最新短編集。
アメリカ・タイム誌の「2020年のベスト本100」に選出。
『おばちゃんたちのいるところ』(2016年)の英訳本"Where the Wild Ladies Are".
(英語タイトルは原著の日本語版についていたもの)
https://time.com/collection/must-read-books-2020/5904427/where-the-wild-ladies-are/
< アメリカ・タイム誌の「2020年のベスト本100」に選出>
『おばちゃんたちのいるところ』(2016年)の英訳本"Where the Wild Ladies Are".
(英語タイトルは原著の日本語版についていたもの)
https://time.com/collection/must-read-books-2020/5904427/where-the-wild-ladies-are/
<松田青子さんの新聞記事>
2021年5月12日(水曜日)付朝日新聞
「ウルフの生き方 いまに響く フェミニスト作家 新訳次々 芸術にも影響)





