日露は『勝った』のではなく
『負けなかった』戦(いくさ)なんだ。
陸軍史を生涯のテーマとしてきた原さんが、ひとつ溜め息をついた後、こう付け加えた。
「少し大きな話になるけどね、僕は、やはり日露戦争の影響が大きかったと思う。日露は『勝った』のではなく『負けなかった』戦(いくさ)なんだ。それを大勝利とぶちあげて、酔ってしまって、あらゆる判断が狂っていった。兵站を軽視するのも、小さな島国が資源不足で補いきれない部分を精神論で埋めていこうとする姿勢も、あのころから酷くなるだろう。実力を顧みず、思い上がってしまったんだ。それを正直に指摘しようとする者は組織からどんどん排除されていく。開戦に反対して首を切られたのは、なにも田尻さんだけじゃない。まあ、こういう話は決して昔話じゃないけどね」
『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(堀川恵子著、講談社、2021年)より
